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 最初に真子の目の異変に気がついたのは、会社から帰宅し寝室で着替えをしていたパパだった。
「ねえ、真子ちゃん・・・ちょっと目が変だよね?」
 着替えをすますとすぐ、パパは台所で夕食の支度をしているママのところへ行き、心配そうな声でそう話しかた。
「え!真子ちゃんの目がどうかした?さっきまでは何ともなかったけどーー」
 振り向いたママはパパの真剣な顔に不安を感じ、急いで階段を駆け上がり寝室のドアを開けた。
「真子ちゃん!」
 大きな声で名を呼びながら入ってゆくと、真子はお気に入りのソファの上にお座りをして、いつもどおり大きくママに尻尾を振った。けれどその目は両方とも下瞼が腫れ上がり、瞳孔がすっかり上を向いてしまっている。
「どうしたの真子ちゃん、その目!?」
 ママは動転して、声を上ずらせた。
 真子は困ったように俯き、力なく尻尾を垂らした。
「なんか・・・急に変になったの。でも真子何にもしてないよ」
 真子はママに咎められているような気持ちになり、声を落として言った。
「すぐ病院に行きましょう!目のことだから・・・万が一のことがあったら大変よ!」
 ママはそう言って真子の頬を優しく撫でた。真子が心配そうにママを見上げる様子を見て、冷静さを失った自分のせいだと気づいたのだ。後を追ってきたパパも「駅の向こうに24時間の動物病院があるから、そこへ連れて行こう!」とママを急き立てた。

 病院へ着いた時には、もう夜の9時半を回っていた。待合室には真子とママとパパの3人だけ。受付には60代後半くらいの優しげな物腰の男性が一人腰かけ、さきほどママが書き込んだばかりの受付用紙に目を通している。15分程待って、ようやく診察室から一人の女性の看護師が出て来て「こちらへどうぞ」と真子たちを招き入れた。
「急に目がこんな風になってしまって・・・」
 ママはなるべく落ち着いた口調で、真子の目の変化や思い当たる節などについて説明をした。それに対し看護師は、次々と矢継ぎ早にママに質問を浴びせかけた。それは目の事だけではなく、普段の食事や生活の様子に至るまで、実にこと細かな内容だった。

「それでは、真子ちゃんをお預かりします」
 質問が終わると看護師は、ペンを走らせていた問診票を診察台の上に置き、そう言って小脇にはさんでいた白いバスタオルで真子をくるみ、そっと抱き上げた。
 真子は抱かれながら1度だけ、心配そうにママを振り返った。
(大丈夫よ、真子ちゃん!)
 すぐにママは、真子にだけ聞こえる魔法の声でそう言って小さく肯いた。

 その後診察が終わった時には、待合室の時計は10時半を差していた。
 診察室から出て来た真子は首に大きなカラーを巻かれ、さながらエリマキトカゲ状態。すっかり元気を失い、悲しげな表情で首をうなだれていた。
 真子はずっと黙りこくっていたが、帰りの車中でふいに声を張り上げママに訴えた。
「ねえ、ママ!この首に巻いてあるおおきなカラーを外してちょうだい。どうしてこんなの付けられたの?」
 けれどママは、首を横に振った。
「かわいそうだけど、そのカラーは外せないのよ。真子ちゃんが、うっかり目をかいてしまうことがないように付けたものだからね・・・」
「真子、目をかいたりしないよ!だからこれを外して!」
 ママはじっと真子を見つめ、それから静かにこう言った。
「でもね、寝ぼけて目をかいてしまうことだってあるでしょう?もうちょっとだけ辛抱してね、真子ちゃん」
 ママにそう言われ、真子は黙って俯いた。たしかに真子はよく、寝ている間に無意識に耳をかいたりお腹をかいたりする癖があるのだ。
 目をかくと病気が良くならないのだとママから説明を受けていた真子は、カラーをつけるのは憂鬱でも仕方のないことなのだと諦めざるをえなかった。
(あ~ぁ。後どのくらいこのカラーをしてなきゃならないのかなあ?)
 真子は情けない気持ちになりながら、心のなかで溜息をついた。
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約束の日が来た。
パパの運転する車に乗った真子たち一行は、「ペット祭り」の会場となる市立中央公園へと向かって出発した。もちろん、明お兄ちゃんも一緒である。
この日は朝から素晴らしい晴天に恵まれ、会場は大勢のペット連れで賑わっていた。助手席のママに抱っこされていた真子は、車の窓ガラスに鼻をつけて外を眺め、嬉しそうにはしゃぎ声を上げた。車が公園の敷地内に入った辺りから、通路のあちらこちらに愛犬連れの家族の姿がいくつも見える。さらに駐車場に着くと、停車している車の中からも次々にワンちゃんたちが降りて来る姿が見えた。
「わあ~、ワンちゃんがいっぱい!」
これだけのワンちゃん連れが集まるのを、真子はこれまで見たことがなかった。それは明お兄ちゃんも同様だったらしく、「結構集まってるねぇ。凄いなあ」としきりに感心していた。
そうやって明お兄ちゃんと真子が珍しげに周囲のワンちゃん連れに見とれている間、パパとママはさっさと会場入口で入場券を購入して戻って来た。
そしてパパは、入場券と一緒に渡された会場案内図を眺めながら、「まずは会場を1周してみて、それから見ていく順番を決めることにしよう」と言った。この提案にママと明お兄ちゃんもすんなり同意し、真子たちは会場の入り口に近い順に、行われているイベントを見物して回ることにした。
広い会場にはいろんなコーナーが設けられていた。
アジリティ競技にも参加しているワンちゃんたちのスピード感あふれるショー。それぞれ趣向を凝らした衣装を着て上手にダンスをするワンちゃん。その他参加型のイベントなどもたくさんあった。例えばアジリティが初めてのワンちゃんばかりを集めて、遊び方をパパやママも参加して学ぶというコーナーなんかもあった。真子はアジリティを使って遊んだことがなかったので、これには興味しんしん。
そして会場には、わんちゃんグッズを取り扱うお店もいっぱい軒を並べていた。パパや明お兄ちゃんが参加型イベントを熱心に見ている傍で、ママは「真子に似合いそうな洋服はあるかしら?」などと言いながら、ちらちら店先をのぞいていた。
そうやってしばらく歩くうち、ふとママが前を歩く一組の家族に目を止め声をかけた。
「あら・・・、山田さん?」
ママの声に真子が顔を上げると、こちらを振り向いたのは見覚えのある親子連れと、見たことのない一匹のコーギーだった。
山田さんと言うのは近所に住む小学生の男の子のいるお宅で、真子も何度かお散歩の途中で顔を合わせたことがある。小学4年生になる男の子が真子に興味を持っていて、出くわすといつもかがんで頭を撫でてくれた。その山田さんが、知らぬ間にコーギーを飼っていたらしく、ペット祭りに来ていたのだった。
ママは山田さんの連れているコーギーが、番号札のついたバンダナを巻いているのを見て、驚いて話しかけた。
「一発芸に参加するの?なになに・・・優秀なワンちゃんは、タレントデビューの可能性ありですって!」
イベント会場で配られていたチラシを読んでママが甲高い声で言うと、山田さんは照れ臭そうな声で応えた。
「うちの子はタレントデビューなんて無理無理!ただ、ちょっとだけ普段教えた芸を披露してみようかなって思っただけなのよ」
ママはパパと明お兄ちゃんを呼び止めて、山田さんのワンちゃんが参加する一発芸のイベント会場から見物しようと言い出した。

真子は舞台の上で、ピストルに撃たれて死んだふりをしたり、ハイタッチをしたりして芸をするコーギーを見てママに話しかけた。
「ねえ、ママ。真子にもできるよ、あれくらい」
けれどママは、首を横に振って言った。
「ママ、真子ちゃんには舞台に立ってもらいたくないの。のんびり家族で過ごす今の暮らしがとっても大切だから・・・。もし真子ちゃんがタレント犬になったら、忙しくて一緒にいられる時間はとっても少なくなってしまうのよ」
それを聞くと、真子も納得したように応えた。
「真子ずっとママのそばにいたい。いつでもママと一緒がいい。だからタレント犬にはなりたくないな・・・」


「風が気持ち良いねぇ!」
久しぶりに真子を連れ、近所の公園へと散歩に出た明は心地よさそうな声で言った。
秋の気配を感じさせる冷んやりとした風が、公園の散策路を歩く真子たちの背中を押すように吹き抜けていく。
 ウッドチップ製の赤茶けた歩道の上に、ときおり舞い上げられる枯れ葉を追いかけ遊びながら、真子は中央広場に大勢集まっている子供たちを横目で眺めた。
「明お兄ちゃん、あの子たち何をしているのかしら?」
真子の問いかけに、明は緑の芝生の上にあるベンチまで行き腰かけて答えた。
「ああ。ときどき公園奥にある運動場で体操教室をやってるみたいだから、それに参加する子供たちだね」
「体操教室?」
 真子が首を傾げてたずねる。
「小さな子供たちが、体操の先生に体操を教わったりゲームをして遊ぶんだよ。ほら列の先頭と最後尾に立った若い男の先生と女の先生が、子供たちに呼びかけて整列をさせているだろう?」
 明お兄ちゃんの言う通り、さっきまでばらばらに行動していた子供たちが先生の指示に従って列を組み始めた。それを見ながら真子はうらやましそうに言った。
「真子は体操教室に参加したことないの。楽しそうだね・・・」
 明お兄ちゃんはそれを聞いて、真子をじっと見つめた。
「真子ちゃんも、お友達がたくさん欲しいかい?」
 すると真子は、訴えるような目で明お兄ちゃんを見上げた。
「うん・・・。たまにお散歩ですれ違うことはあるけど、みんなで一緒に走り回ったり遊んだりすることないもの」
「そうかぁ・・・」
 明お兄ちゃんはそう言ったきり、黙って遠くを見つめていた。しかししばらくすると何事か思いついたようにポンと膝をたたいて言った。
「だったら今度、県立公園で催されるペット祭りに参加してみたらどうだろう?たくさんのワンコ連れが参加するし、きっと楽しいんじゃないかな」
 真子は思いがけない提案に、目を輝かせた。
「真子行きたい!ママたち連れて行ってくれるかな?」
 明はにこにこして応えた。
「大丈夫だよ。僕からママたちに頼んであげる。それに、もちろん僕も一緒に参加するよ」
 たちまち真子は嬉しくなり、尻尾を激しく横に振りながら明お兄ちゃんの膝にじゃれついた。
「うん、明お兄ちゃんも一緒にね!パパとママと明お兄ちゃんと真子、みんなで一緒にペット祭りに行こう!」
 その日はお散歩の間中、真子は上機嫌で明お兄ちゃんとお喋りをしながら歩いた。
ペット祭りの日は何時に待ち合わせしようとか、お昼はどこで食べるとか。あるいは当日行われるイベントで面白そうなものには、できるだけたくさん参加してみようとか。いろいろな相談をしたのである。
 そして散歩から帰ると、真子はママの前にきちんとお座りをして、明お兄ちゃんがママにペット祭りの話をするのを聞いていた。
 ママはひとしきり明お兄ちゃんの話を聞くと、壁のカレンダーをめくりおもむろに訊ねた。
「真子ちゃん、ペット祭りに行ってみたいの?」
 真子は緊張した声で答えた。
「はい!」 
 ママは真子の神妙な様子に笑みをこぼし、「じゃあ、みんなで行きましょうか!」とはりきって叫んだ。その途端真子は跳びあがって喜び、ちぎれんばかりに尻尾を振ってリビングを駆け回った。
そんな真子の様子を見てママは隣の明に目配せをし、二人は声をそろえて笑った。


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 最近ママは、パパと二人連れだって、ちょくちょく外へと食事に出かけるようになった。
「真子ちゃん。ママちょっとパパと一緒に出かけてくるわね」
 ママったら、真子がめいっぱい恨めしそうな顔をしてママを見つめていても知らんぷり。
「2時間まではかからないと思うから、一人でお留守番できるわよねぇ。真子はもうお姉ちゃんだもの!」
 なんて間延びした声で言うだけだ。こういう時のママは、真子がなんて言っても無駄。いくら「ママ行かないで!」ってお願いしても、「真子だけおいてくなんてひどい!」って抗議しても、「大丈夫よ。すぐに帰って来るんだから」となだめ口調でかえされるのが関の山。

 この間遊びに来てくれた明お兄ちゃんに訊ねたら、「いまママはとても仕事が忙しいんだよ。たまには家事を休んで息抜きもしなくちゃね」と言ってたけど、真子一人お留守番させられるのはやっぱり嫌。どうして一緒に連れて行ってくれないのだろう?って悲しい気持ちになる。
 ついさっきもダイニングテーブルの上に置いてあった携帯電話が鳴ったかと思うと、「あらパパ、早いわね!」と叫ぶママの嬉しそうな声が響いてきた。真子が不安になって近寄っていくと、やっぱり電話口のパパに外食しようともちかけている。
真子はママが電話を切るのを待って、悲しそうな声で話しかけた。
「ねえ、ママ・・・」
 けれどママは、取り付く島もない言い方で真子に背を向ける。
「真子ちゃん。ちょっとお留守番しててくれる?」
 そう言って手早くエプロンをはずしてダイニングテーブルの上に置くと、リビング奥の階段をとんとんと上がって行く。真子は慌てて後を追った。ママは突当りの寝室のドアを開けながら、足下の真子を見下ろしてさらりとした口調で言い添えた。
「そんなに遅くはならないから・・・」
ーー真子はがっくりと首を項垂れた。尻尾は力なく床につき、悄然とした様子で寝室の床に座り込む。
だがこの時何気なく後ろを振り返ったママは、自分の顔色をうかがうように見上げる哀れな様子の真子の姿を目にしてさすがに胸が痛んだ。これまで自分の気が晴れず出かけることばかり考えて、真子を気に留めていなかったことが後悔されてきた。ママはそっと真子のそばに寄ると、頭を何度も撫でながら、「ごめんね。なるべく早く帰るから・・・」と優しい声をかけた。
すると真子は、少し元気を取り戻して言った。
「ほんと?じゃあ早く帰って来てね!」
 そう言って心持ち尻尾を振り、ママを送り出したのだった。
 

 住宅地を抜け駅へと向かう道すがら、夜道を照らす街灯の数がしだいに増え、飲食店の看板がちらほら見え始める商店街の入り口間際まで来たところで、ママは立ち止まり心の中でつぶやいた。
(決めたわ!もう、真子を置いて外出するのはやめよう!だって、いつだって真子が一番わたしを癒してくれるもの・・・。真子が嬉しそうにしてると、わたしも元気をもらえる。だから明日からは、真子をお留守番させるのはやめにしましょう!)
 
こうしてママは待ち合わせ場所まで行きパパとおちあうと、その足ですぐに家に帰り、真子を喜ばせたのだった・・・めでたし、めでたし。

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祝 東京2020オリンピック開催決定!!

 夜中、突然何かの物音を聞いて真子は目を覚ました。
暗闇の中ゆっくりとうごめく黒い影・・・。どきりとして目を凝らすと、それはパジャマ姿のパパが、ママと真子のベッドに近寄って来ようとしているのだと分かった。
 真子は素早くママの足元に回り、近づいて来るパパに向かって大声でぼやいた。
「パパ~、こんな時間にどうしたの?びっくりするじゃない!」
 そこへ真子の声を聞きつけたママが、眠い目をこすりながらもベッドに身を起こして言った。
「・・・そろそろ時間?」
 ママがそう言うのを聞いて、真子はきょとんとした顔になる。こんな夜中に、ママたちには何か用事があるのかしら?真子が二人の様子を眺めていると、パパは寝室の照明とキャビネットの上に置かれた小型テレビのスイッチをつけ、起きて来たママと一緒に、テレビの向かいに置かれたラブソファに並んで腰かけた。
 テレビの画面に、長テーブルを囲んで和やかに談笑する人たちの映像が映し出される。人の言葉が少ししか理解できない真子は、すぐにママの膝の上にとび乗り、甘えるように尋ねた。
「ママ~、こんな夜中に何のテレビを見てるの?」
 するとママは口元にひとさし指をたて、かすれたような声でこう答えた。
「ごめんね、真子ちゃん・・・起こしちゃって。でもこれから大切なニュースが流れるから、真子ちゃんは静かにしていてね。パパもママもそれを聞きたくて、夜中に一緒に起きてテレビを見る約束をしていたのよ」
 そう言ってからママは、画面の中央を指差してこう付け足した。
「あそこに、5つの輪っかの絵が描かれているでしょう?あれはオリンピックという大きなお祭りのマークなのよ。このお祭りは4年に一度開かれるんだけど、2020年のお祭りをどの国で開くかが、これから投票で決められることになっているの。パパもママも、是非このオリンピックを東京で開いて欲しいって願っているのよ」
 真子は、パパやママがわざわざ夜中に起き出してまでテレビにくぎづけになるくらいだから、オリンピックというお祭りはとても楽しいお祭りなんだろうなぁ・・・と思いを巡らした。以前見たことあるお祭りみたいに、お神輿が出たりするのかしら?

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