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 ある日の朝、目覚めたメリルさんは驚いた。
 いつもなら彼女の横にぴったりとくっついて寝ているはずの愛犬の姿がどこにも見えないのだ。彼女はあわててベッド脇の小窓から身を乗り出して外を眺めた。メリルさんの寝室は家の3階、東塔のてっぺんにある。ここはちょうど屋敷の正面にあたっていて、広いファンタジーガーデンが一望できる彼女のお気に入りの場所にもなっていた。
「レグルス!レグルス!」
 メリルさんは何度も名を呼び、小さな茶色の子犬の姿を探した。しかし目を皿のようにしてガーデンの隅々まで眺めても、緑の木々の葉蔭に隠れているのか一向に探し当てることができない。彼女はひとつ溜息をついて庭のメインツリーへと目を向けた。すると一羽のカラスが、まるで彼女の溜息を聞きつけたかのように、羽音をたてながらこちらへと近づいて来た。
「イジー、お願い。レグルスを探して帰ってくるように伝えてちょうだい!」
 メリルさんがそう声をかけると、カラスは気のりのしない声で答えた。
「ーメリルさん。レグルスなら池のふちを散歩しているのを見かけたよ。きっともぐらのユノーに会いに行ったに違いない!そうなったらしばらくは帰ってこないよ。なにしろユノーはのんびりやだからね」
イジーの言葉にメリルさんは少し困ったような顔をしたが、お腹がすけば返ってくるわねとつぶやき、窓枠にとまっているイジーの頭を優しく撫でた。
 イジーは、メリルさんが何か気に病んでいるなと思った。
 実はこの数日、彼は外を眺めてはもの思わしげに大きなため息をついているメリルさんの姿を何度となく目にしていたのである。しかしイジーは、不用意にメリルさんに問いただすつもりはなかった。それは、メリルさんがごく小さないざこざにも、いつだって一人心を痛める優しい心の持ち主だと知っていたからである。まず彼女の気がかりの原因を突き止め、その解決策を見いだせたら、その時メリルさんに話しかけよう!イジーはそう考えていた。
「ねえイジー。私と一緒に朝食はいかが?」
 メリルさんは笑顔でイジーに話しかけた。イジーは勢いよく「カー!」と一声鳴くと、翼を大きく広げばたつかせてみせた。これが、彼らからす特有の喜びの表現なのである。メリルさんはてきぱきと身支度を整えると、朝食の準備をするため1階の台所へと向かった。東塔のらせん階段を足早に降りていくメリルさんの後ろから、イジーがゆったりと円を描くように滑空してついていく。
 台所に入ると、メリルさんは壁に整然と並べられてある鍋の一つを手に取った。みごとに磨き上げられ輝いているその鍋を、イジーはうっとりと眺めた。きれい好きなメリルさんの持ち物は、どれもよく手入れされ輝いているものが多い。イジーにはその一つ一つが、貴重な宝物のようにうつるのだった。メリルさんは鍋をこんろの上におき、足元の水がめから水をすくって入れ火にかけた。その様子を見ていたイジーが、思い立ったように声をかけた。
「メリルさん。何かお手伝いしましょうか?」
 メリルさんは上機嫌で答えた。
「まあ、ありがとう!それじゃあ、奥の食糧庫から野菜を取ってきてもらえるかしら?」
 イジーは2,3度大きくうなづくと、驚くほどのスピードで器用に壁や天井をよけて飛びながら、まっすぐに台所の奥にある食糧庫へと入っていった。メリルさんが感心しながらその後ろ姿を見送っていると、ふいに玄関の呼び鈴が鳴った。
「こんな時間に誰かしら?」
 メリルさんはそう言って、壁の柱時計を見上げ首を傾げた。
 するとまた呼び鈴が鳴った。
 メリルさんは怪訝そうな声ではーいと返事をしながら鍋の火を弱火にした。そして、ゆっくりと玄関へ行き扉を開けた。
 扉の向こうには、一人の老人が立っていた。老人は自分は郵便配達人だと名乗り、メリルさんに1通の手紙を差し出した。

 
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