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 メリルさんが差し出されるまま手紙を受け取ると、老人は無言で踵を返した。だが彼がやや前かがみに階段を下りようとした拍子に、肩にかけていた大きな鞄がずれ落ち、老人はもう少しで階段を踏み外しそうになった。気をもんだメリルさんは思わず小さな悲鳴をあげた。大きくよろけながらもなんとか踏みとどまった老人は、頭をかきつつこちらを振り返った。彼は顔ににが笑いを浮かべ、さも心配いらないよといったそぶりで両手を振った。
「お気をつけて」
 メリルさんは、年老いた郵便配達人に優しく声をかけた。
 彼女の言葉に元気づけられたのか、老人はぴんと背筋をのばし、しっかりと鞄をかかえなおした。そして、ゆっくりと庭の小道づたいにもと来た道を門の方へと歩き去っていった。
 深い山奥にあるこの屋敷を、誰かが訪ねてくるというのは非常に稀なことだった。メリルさんは、玄関脇の花台に置かれたまま忘れ去られていた古いカウベルに、ふと目をとめた。彼女はカウベルを取り上げ懐かしげに触ると、以前のようにまたそれを玄関扉に取り付けることにした。そしてカウベルののどかな音色とともに、メリルさんはゆっくりと扉を閉じた。
 メリルさんの小さな悲鳴を聞きつけたイジーが急ぎ食糧庫からひき返してきた時、すでに郵便配達人の姿はそこにはなかった。しかし届けられた手紙が、メリルさんにとって不吉なまえぶれとなったことを、イジーは即座に知ることとなる。彼は見逃さなかった。はじめ何気ない表情で手紙の差出人に目を通したメリルさんの顔がたちまち青ざめ、みるみるかきくもっていくのを。メリルさんが気に病んでいることと、この手紙の差出人とには、きっと深い関わりがあるに違いない!イジーはそう直感した。
 メリルさんは、呆然としばらくの間手紙を手に握りしめたまま、考え込むように床をみつめて立っていた。そんな様子を気づかったイジーは、メリルさんを驚かさぬよう、できる限り静かにそーっと彼女の右肩の上にとまった。メリルさんははっとして肩にとまった友人の姿をふりかえったが、その際イジーのくちばしに食糧庫から運んできた野菜がくわえられているのを見て、ようやく我に返ったように叫んだ。
 「いけない!お鍋を火にかけっぱなしだわ!」
 メリルさんは大急ぎで手にしていた手紙を食卓のテーブルの上に投げおくと、小走りに台所のこんろの前へと駆け寄った。イジーはメリルさんが鍋のところまで戻ると、くわえていた野菜をそのかたわらに落とし、すっとメリルさんの肩を離れ飛び立った。そしてさきほどのテーブルのはしにとまると、飛び跳ねるように手紙に走り寄り封筒をくちばしにはさんだ。そしてそれを裏返しにして落とし、差出人の名前と住所に目を走らせた。
 イジーは簡単な文字なら読むことができる。早くからイジーの頭の良さに気付いていたメリルさんが、彼に文字を教えてくれたからである。手紙の住所を読みあげながら、イジーはそれが聞き覚えのある通りの名前であることに気付き小躍りした。やったぞ!この通りなら知っている場所だ!あいにく差出人の名前に心当たりはなかったが、この住所に住んでいる人物なら探し当てられなくはないだろう。イジーはそう考え、手紙の差出人をたずねてみようと決心した。
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