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もう9月ですね。
とはいえ、まだまだ暑い日が続いています
そんななか、この暑さにもめげず、わが家の庭の片隅で咲いていたプリンセスダイアナ(クレマチス科)の写真をアップさせていただきました。
プリンセスダイアナよ!あなたって、ほんとに偉大
一方その主人である私はというとー、
「秋~よ来い、早~く来い!」
と、そんなかえ歌をくちずさみながら、日々、「花の水やりって面倒!」などとぐちをこぼしている始末ー。
植物たちよ、怠け者の主人を許してね。彼らが瀕死の状態になる前に、どうか涼しい季節が一刻も早く来ますように。

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 イジーはつがいのからすに教わった。
 谷を飛ぶときは風にうまく乗ること。特に上昇気流にうまく乗れれば、楽に遠くまで飛ぶことができるのだということを。彼はその言葉に従い、これまで飛んだことのないほどの速さで遠くへと移動することに成功した!親のいないイジーにとって、飛び方を教わるというのは初めての経験である。
 だからなのだろうか?
 つがいのからすに「そうそう!それでいいよ」と声をかけられるたび、彼はなんとも面映ゆい気分がした。
 やがて山の峰がきれ谷を抜ける頃になると、三羽はそれまで身をゆだねていた上昇気流からいっせいに離れ、力強くはばたき始めた。そして一定の距離は置きつつも、常に縦一列の体制を保ち、徐々に森の方へと低空飛行に移っていった。先頭にはつがいのオス。続いてメス。そして最後尾がイジーである。
 ここから先は、見渡す限り杉や樫の木々が生い茂る緑深い森が延々と続く。三羽はときおり風にあおられ、危なく木々の梢に翼をぶつけそうになりながらも、懸命に互いに声をかけあい飛び続けた。
 やがて森が途切れると、一転そこには豊かな牧草地が出現した。広大な牧草地のあちこちに、のんびりと草をはむ牛馬の姿が見受けられる。イジーは、メリルさんにファンタジーガーデンに連れて来られてから、ガーデンとその周囲の森以外へは飛んで行ったことがなかった。それだけに、眼下に広がる見慣れぬ景色は、若い彼の心を高揚させずにはおかなかった。
「ここまで来れば、町はもう目と鼻の先よ!」
 メスのからすが、待ち切れぬようにそう叫んだ。
 それは、牧草地では点在していた人家がいつの間にか集落となり、大地を覆っていた緑の草々は、隙間なく敷き詰らめたれんがの舗道へと変わり始めた頃であった。
 イジーは生まれて初めて見る町の光景を、ひとり想像し胸をはずませた。彼は以前メリルさんの部屋で、町の写真を一度だけ見たことがある。それは彼女あてに届いた絵葉書の写真で、その中に目指す通りも写っていたのであった。
「いやいや、そう気のはやるようなことをいうものじゃないよ!イジー君の言っていた通りは町の中央に位置しているからね。まだしばらくは飛び続けなければいけないよ」
 先導して飛んでいたオスのからすは後ろを振り返り、たしなめるように言った。
 彼の言ったとおり、町の中心地まではまだかなりの距離があった。普段長距離を飛行する経験など皆無のイジーは、全身に激しい痛みを感じ始めていた。すぐ前を飛んでいたメスのからすが彼の異変に気付いたときは、すでにイジーは体制を崩し地面へと落下し始めていた。メスの悲鳴に驚いた先導役のオスは、慌ててイジーの真下へと滑空すると、力まかせにイジーの体を背中で突き上げた。
「しっかりしろ!」
 オスのからすの叱責に、イジーは痛みにうめき声をあげながらも力を振り絞り、翼をはためかせた。だがなんとか落下は防げたものの、よろめくように地面へ舞い降りた途端、彼はそのまま動かなくなった。
「イジー、頑張って!ここはまだ、人の往来が多い場所だから危険よ。もう少しだけ頑張って!」
 メスのからすは何度も悲痛な声を上げ励ましたが、イジーは翼を大きく地面に広げたまま目を閉じぴくりともしない。すでに彼は意識を失っていたー。
 その時である。通りの向こうから、舗道を軋ませこちらに近づく馬車の音が響いてきた。つがいのからすは悲しげな声でかあ!と一声大きく鳴くと、イジーの脇に建っている屋敷の屋根へと急いで舞い上がった。


少し前になりますが、この夏、恒例のワンコ旅行に出かけました
那須どうぶつ王国で撮った写真をアップします!
那須どうぶつ王国は山腹の谷間に造られた広大な動物園。
ワンコ連れも入れるので、ワンちゃん連れの旅行にはおすすめですよ
那須の次に行ったのが軽井沢です
軽井沢の白糸の滝の写真をアップしました。104.jpg
これを見ると涼しかったのを思い出します
(写真はクリックすると大きくなります)


 もはや馬車は目前にまで近づいていた。つがいのカラスは、なんとかイジーが意識を取り戻しはすまいかと、声も張り裂けんばかりに彼の名前を呼び続ける。彼らは長旅の経験のないイジーに、無理な飛行を強いた自分たちを責めていた。そして、なすすべのない自分たちの無力さにうちのめされながらも、代わるがわる天を仰いでは神に祈った。
そんなつがいのからすたちの思いなど知るよしもなく、馬車の御者は「今日はやけにカラスが騒ぎやがるなあ!」と舌打ちし、眉をひそめたきりであった。
 ついに馬車は舗道の曲がり角にさしかかり、そのすぐ脇にぐったりと横たわっているイジーの体を今にも踏みつぶそうとした。
その時である。
「危ない!」
 御者が思わず悲鳴を上げた。馬車を引いていた二頭の馬たちは、いきなり御者に手綱を強くひかれ、驚き立ち上がった。その拍子に黒塗りの立派な馬車は大きく揺れ動いた。
「おい、どうしたんだ?!」
 馬車の窓から首を出し、一人の紳士が御者に声をかけた。
「へい、すみません旦那様。子供が急に飛び出して来たもんですからー」
 御者は申し訳なさそうな声でそう答えた。
「子供だって?」
 紳士は驚いたようにそう言うと、馬車の扉を開けて舗道へと降り立った。
 見ると馬車のすぐ前の舗道の隅に、一人の少年が立ちこちらを見つめていた。少年は腕に一羽のからすを抱きかかえている。
 御者は勢い振りかえり、少年に向かって怒鳴りつけようとしたが、すんでに、少年の着ている制服がこの町きっての名門の制服であることに気づき口ごもった。
 馬車の主は、ゆっくりと少年に歩み寄りくだけた調子で言った。
「馬車の前に飛び出すとは、すいぶん無茶がすぎはしないかね?」
 しかし少年はたじろぐ様子も見せず、真っ直ぐに紳士を見返して言った。
「あのまま放っておいたら、このからすは踏みつぶされてしまうところでした」
 きっぱりとした口調の少年に、紳士は感心したようにうなづいた。
「確かにそうだね。どうやら、きみがそのからすを助け出したようだ」
 御者は小声で、「そんなうす汚いからすなんか!ー」とつぶやいたが、少年の睨みつけるような目に気づきおし黙った。
「からすにも、命はあるんです!」
 少年は毅然とした態度でそう言った。
 紳士は少年をじっと見つめた。
「きみはエディントン校の生徒だね。私はチャールズ・ブラント。きみの名前も教えてもらえるかな?」
 すると少年は、輝くような笑顔を浮かべ答えた。
「僕はデービッド゙。デービッド・マーシャルです!」
 御者は思わず、ひえっ?!とうめくように叫んだ。彼が驚いたのも無理はない。間一髪、彼が馬車で引きかけたのは、なんとこの町の領主マーシャル家の少年だったのである。


 老人は持って来た木箱をテーブルの端に置くと、椅子を引き寄せイジーのそばに腰かけた。イジーは体を柔らかな布で全身をくるまれ、テーブルの上に寝かされていた。冷えた体が温められ意識は戻ったものの、まだ全身にしびれるような激しい痛みが走る。彼はぶるっと身を震わせると、翼をたたんで身をすくませた。イジーはすっかり情けない気持ちになってしまった。
「かなり長旅をして来たのだろう?ひどく疲れているようだね」
 そんなイジーをねぎらうように、老人は言った。そして、さきほどの木箱のふたを開けると、中からなにやら取り出した。それはいびつな形をした、小さな木の実のようなものであった。
 「この香りを嗅いでごらん」
 老人はつまんだ木の実を手のひらの上に乗せ、そっとイジーに差し出した。嗅いでみると、とてもいい香りがする。イジーは全身から痛みが消えていくような不思議な感覚に襲われた。
「これは、名もなき花の球根なんだよ」
 途端にイジーは、えっ?!と小さく叫びあとじさりした。
「大丈夫、心配はいらないよ!これを嗅いだからといって、死んでしまうようなことはないからね」
 老人は慌ててそう言ったが、イジーはメリルさんから教わっていた。「名もなき花」には不用意に近づいてはいけない。その芳香は時として強く香り、命を奪うことさえあるのだからと。
ーーそれに、メリルさんにしか育てられないこの花の球根を、なぜこの老人は持っているのだろうか?
イジーは老人の顔をまっすぐに見つめた。悪い人にはみえなかった。だが、メリルさん以外に球根を持っている人など、いるはずもないのである。
 するとそんなイジーの心を見透かしたかのように、老人が言った。
「私は泥棒ではないよ、からす君。きみはこれをメリルさんから盗んだと思っているようだがね。だがそうではないんだ。これは私が彼女に譲り受けたものなんだよ。名もなき花は彼女にしか咲かせることはできない花だ。だからこれは、メリルさんの育てている球根の子株を分けてもらったものなんだよ。彼女は私に、(もしかしたらあなたにも、この花を咲かせることができるかも知れませんーー)とそう言って、この球根を私に分けてくれたんだよ」
 老人はそう言うと、大事そうに球根をまたもとの木箱の中へとしまいこんだ。
「ーーさて。名もなき花の持つ力を知っているということは、君はファンタジーガーデンに住んでいたのかな?」
 老人が問うと、イジーは何度も大きく首を縦に振って答えた。
「そうです!」
 そんなイジーのしぐさに、黙って様子をうかがっていたデービッドが口を開いた。
「ファンタジーガーデンっていえば、以前クリスが造園を手伝ったって言っていた、あの庭のこと?」
 老人はデービッドの方を振り返ると、「そのとおりです、デービッド様」と答えた。
 老人は、重ねてイジーにたずねた。
「それならば、何故こんな遠くにまでやって来たのだね?町に住むよりはるかに、あそこは住みよいところだろうにーー」
 するとイジーは、激しく首を横に振り語気を強めて言った。
「僕はファンタジーガーデンからこの町に移り住んできたわけじゃありません。大切な用事があって来たんです!」
 イジーは老人に、彼がこの町に来た訳をーーとりわけ、なんとしてでも訪ね人を探し出したいのだということを強調して説明した。すると老人は、私にできることはお手伝いするよ、と言ってイジーに尋ねた。
「それで、その手紙の主とは誰なんだね?」
 イジーは声を弾ませて言った。
「チャールズ・ブラントっていう人です!」
 
(写真はクリックすると大きくなります)
物語の記事が続いたので、ここでちょっと一息。011.jpg
庭のムクゲの写真をアップしました
実はここ数日で、ムクゲの花色に変化が起きたんです!
夏の間はずっと淡いピンク色だったのに、ややラベンダーがかった色に。
植物は、敏感に季節の変化を感じているんですね
「チャールズ・ブラント……」
  老人はそうつぶやいて、首をひねった。聞き覚えのある名前なのだが、どうしても思い出せない。
 考え込んでいるところへ、デービッドが話しかけてきた。
「クリス。チャールズ・ブラントっていう人がどうかしたの?」
 そこでクリス老人は、イジーとの会話の内容をデービッドに説明した。するとデービッドは驚いた様子で、ついさっきその人物の乗った馬車に、イジーがひき殺されかけたばかりなのだという話をした。
「ーーでも、チャールズ・ブラントと名乗った人は感じの良い紳士だったよ」
 デービッドがそう言ったとき、クリス老人はポンと膝を叩き、「思い出しました!」と叫んだ。
「チャールズ・ブラント氏は、有名な大富豪でございます。以前、伯爵様のお屋敷で一度お目にかかったのですが、お若いながらも人望を兼ね備えた好人物とお見受けしました。かれこれ、10年ほどは経ちましょうか--。デービッド様はまだお小さかったので、ご存知ないとは思いますが」
 二人は、チャールズ氏の居場所をつきとめるには、マーシャル伯爵の執事、ギルバート氏に依頼するのが最も早道であろうと相談した。
「ねえ、クリス。イジーに僕の名前を伝えてくれる。そして僕が、是非友達になりたいって思ってることもね」
 デービッドはクリスにそう言って、二人を心配そうに見つめているイジーの方を振り返り、笑みを浮かべた。
「分かりました、デービッド様。イジーはとても賢いカラスですからね。私もきっと、デービッド様の良い友達になるのではないかと思います」
 クリス老人はそう返事して、早速イジーにそのことを伝えた。名もなき花の球根の香りを嗅ぎ、すっかり元気を取り戻していたイジーは、これを聞き羽をばたつかせて喜んだ。
 イジーは思った。クリス老人は、確かにメリルさんの友人に違いない!だって、大切な「名もなき花」の球根をメリルさんが譲ろうとしたくらいだもの。人間の友達がいれば、メリルさんの悩みを解決する糸口が見つかるかも知れない。イジーは、翼を広げて天井へと舞いあがった。全身の痛みが嘘のように消えている。彼は上機嫌でカーと鳴き、部屋をぐるりと一周すると、すーっとデービッドの肩の上に舞い降りた。
「さあ、行こう!ギルバートさんに君の訪ね人を探してもらわなきゃね」
 デービッドはそうイジーに話しかけ、クリス老人とともに屋敷へと向かった。

 ーーその頃、チャールズ・ブラントは、逗留先の友人宅の居間で屋敷の主と歓談していた。
「デービッド・マーシャルか。僕も彼の噂は聞いているよ。マーシャル伯爵が溺愛しているらしい。母親譲りの端正な顔立ちをしていると、細君もずいぶんと褒めそやしていたな」
 肘掛椅子に腰かけ、ゆったりとパイプをくゆらせながら、恰幅のよい紳士が笑いながらそう言った。
「ああ。確かになかなかの美少年だったよ」
 屋敷の主の向かい側の椅子に座り、じっと傍らの暖炉の火を眺めながら話していたチャールズは、顔を上げにこやかな表情で相槌をうった。
「だが、見かけによらず度胸のある少年だよ。馬車の前に飛び出すなんてね」
「ーーなるほど。だが怪我がなくて何よりだったよ。孫に傷でも負わせれば、伯爵の不評を買いかねない。後あと面倒なことになるだろうからね……」
 屋敷の主は、やや険しい顔つきで友人を見据えた。チャールズは顔をしかめ、無言でうなずいた。
 しばらく二人の間に沈黙がながれるーー。ややあって、再びチャールズは友人にきりだした。
「ーーところで例の件だが、なんとかなりそうかな?」
 椅子から身を乗り出すチャールズに、屋敷の主は難しい表情をした。
「……メリル夫人のことか?」
 チャールズは、固唾をのんで友人の返事を待った。




 
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「お昼寝ですか?」

「--何か?」

「いいですねぇ~。ママもお昼寝したいですぅ」

「……」
 屋敷の主はしばらく考え込んでから、つぶやくように言った。
「メリル婦人には、たしか懇意にしている庭師が一人いたように思うが……」
「庭師?」
 チャールズは聞き返した。
「ああ、直接話をしても、おそらく彼女は承諾はすまい。例の件については10年前に一度断られているからね。それに、君からの申し出については少し前にそれとなく打診してはみたんだが、やはりいろよい返事はもらえなかったのでねーー」
 友人のこの言葉に、チャールズは少なからず落胆の表情を浮かべた。彼は友人に、つい先日彼女宛てに手紙を送ったことを告げた。友人は「そうかーー」と下を向き、溜息をついた。
「だが、彼女の気持ちも10年前とは少し変わってきた様子ではあったのでね。彼女とうちとけて話せるような相手に交渉を依頼すれば、あながち駄目ということもないかも知れない」
 これを聞き、チャールズはやや気をとりなおしてたずねた。
「それで、その庭師を交渉相手に頼むということかい?」
 屋敷の主はうなずいた。
「ああ、そういうことだ。思い出したよ。庭師はマーシャル伯爵のところにいた男で、名前はクリスといったかなーー」
 すると、チャールズも顔を輝かせて言った。
「クリスという庭師なら僕も知っている。腕は確からしいね。伯爵が褒めておられた」
「ああ。女王謁見の名誉に浴した庭師らしいからね。メリル婦人がファンタジーガーデンを造る際、彼に設計の一部を依頼したらしいんだが、それが縁でかなり懇意にしている間柄らしい」
「ほお!」
 光明を見出したチャールズの声は、明るさを取り戻していた。
しかしそんな様子をみて、屋敷の主はためらうように声を低めた。
「チャールズ。君は善良な人間だ。だから僕は君の熱意にほだされて今回の件に力も貸しているのさ。だが、正直<名もなき花>をこの国から外へ持ち出すというのは、あまり気はすすまないよ。知っての通り、あの花は難病を癒す妙薬ともなるが、同時に死に至らしめる毒ともなる花だ。君が善意であの花を持ち出したとしても、世の中にはよからぬことを考える者もいるからね、あの花が悪用されることにでもなればーーと思うと、メリル婦人の気持ちも分からぬではないよーー」
 するとチャールズは決然として言った。
「それでも、<名もなき花>の力を必要とする人々が、世の中にたくさんいるのは事実だよ。僕はなんとしても、その人たちのもとに、あの花を届けたいと思っているんだ!」
 チャールズの意思が堅固なことは明白だった。
「ーーただ、クリスという庭師には妙な噂があってね。町の住民の中には、彼とのつきあいを避けている者もいるらしい。彼が交渉役に適しているかどうかは、我々が会って判断する必要があるだろうね」
「妙な噂とは?」
 チャールズは、気がかりな声で聞き返した。
「ああ。彼はファンタジーガーデンの造園を手伝って以来、ある不思議な特技を身につけたらしくてね。それを周囲に吹聴したために、うそつき呼ばわりする者や、彼が気がふれたに違いないという者もあってね。なんというかーー、まあ、たしかに突拍子がない話なのは事実だからね」
 屋敷の主は、興味深げに自分を見つめるチャールズに言いにくそうに囁いた。
「彼は、動物と話ができるようになった、と言ってるらしいーー」





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最近ブログを始めたら、うちのワンコがどうもつまらないらしいのです
パソコンデスクの椅子に座った途端、ワンワンと吠えるようになってしまいました。
ソファでぐだぐだしてたり、ベッドに寝そべってテレビ見ててもなぁ~んにも言わないのに
なぜか、パソコンデスクの椅子に座ると、吠えて邪魔するようになってしまいました
何が気に入らないんだか……
でも、抱っこしてキーボードたたく訳にもいかないしなぁ。
チャールズは無言で友人から視線をそらすと、思案気に床を見つめた。
「ーーともかく、一度その庭師に会って話をしてみることにしよう!」
 屋敷の主はふたたび彼にそう話しかけたが、チャールズはを小さくうなずいたきり言葉を返すことはなかったーー。


ーーイジーは、デービッドの肩にとまってクリス老人の家から出てきた時、懸命に自分の名前を呼ぶ声を耳にして、空を見上げた。
 見ると通りをはさんだ建物の屋根の上に、あのつがいのカラスがとまっているではないか!彼らはイジーの安否を気遣い、ずっとクリス老人の家の様子をうかがっていたのだった。オスのカラスがイジーに、「大丈夫か?」と大声で尋ねた。イジーは大きく何度もうなずき、これから訪ね人の居場所を探しに少年の屋敷へと向かうのだとこたえた。これを聞くと、つがいのカラスは安心したように互いのくちばしをすり寄せて喜んだ。。彼らは少年に見覚えがあったため、イジーが向かおうとしているマーシャル家の場所もおおよその見当はついていた。それで、イジーに向かってこう叫んだ。
「ぼくらはまず親戚のカラスを呼びに行って、それからその少年の屋敷に行くことにするよ!」
 イジーは、カア!と一声大きく鳴いて彼らに返事をした。
 傍らでこの様子を黙って眺めていたクリス老人は、つがいのカラスが飛び去るのを見送ると、静かな声でイジーに話しかけた。
「仲間が君のことを心配して、ずっと家の外で待っていたのだね?無事な姿を見てさぞ喜んだことだろう」
 これを聞くと、イジーも嬉しそうに羽をばたつかせて言った。
「おじいさん。本当に僕らの言葉が分かるんだね!」
 無邪気なイジーの言葉に、一瞬クリス老人は嬉しそうな表情を見せた。だが、老人はすぐに顔を強張らせ黙りこくった。
 老人は感じたのである。通り沿いの家の窓からのぞく住人たちの冷たい視線にーー。デービッドはクリス老人がふいに黙りこくったのに気づき、さらにその理由にも勘づいて、悔しさから顔を紅潮させた。だが、デービッドにも分かってはいたのである。かたくなな人の心というものは、奇跡を受け入れ難いものだということを。
 うなだれつつも道を急ぐデービッドの目に、ようやく彼の屋敷へと通じる並木道が見えてきた。
 マーシャル伯爵邸は、町の中心からは少し離れた広大な敷地に建てられていた。もともとは古い城が建っていただけであったのだが、現在のジョージ・マーシャルの代になって城が大幅に改修され、以前よりひとまわり大きく立派な屋敷へと建てかえられていた。マーシャル伯爵は領主としてだけでなく、実業家としても実に優れた手腕の持ち主だったのである。
 屋敷が近づくと、デービッドはイジーをクリス老人に託し、一人門の方へと駆け出した。彼が大きな門のすぐ前まで行くと、門の奥から一人の門番が現れてデービッドに会釈し、ゆっくりと門を開いた。
「さあ、早く!」
 デービッドは、大声でクリス老人とイジーを呼んだ。
 クリスはイジーを肩に乗せ、急ぎ足で門へと急いだ。そして彼らが門をくぐると同時に、門はふたたび堅く閉ざされたのであったーー。
  屋敷に入ると、デービッドは迎えに出たメイドに、クリス老人とイジーを応接間に案内するようにと言った。そして、自分は大広間から続く赤いじゅうたんの敷かれた階段を昇って、伯爵の居室の隣にあるギルバート氏の執務室を訪ねた。
「ギルバートさん、デービッドです!」
 執務室のドアをたたき、デービッドは部屋の中の人物に声をかけた。すぐに中から若い男の声で返事があり、一人の背の高い紳士がドアを開いた。
「これはデービッド様。何かご用ですかな?」
 デービッドは執務室の中に入ると、すらりとした背格好のギルバート氏を見上げて言った。
「お願いしたいことがあるんです」
 ギルバート氏は部屋の中央にある来客用のソファに座ると、デービッドにも座るよううながして言った。
「どのようなご用件でしょう?もちろん、わたしに出来ますことでしたら、何なりと承りますがーー」
 デービッドは話をきりだしたものの、やや言葉につまった。チャールズ氏を探して欲しいというのはたやすいが、その理由をたずねられたら何とこたえたものか?彼はまだ、考えをまとめられずにいたのである。
「ーーあの、ギルバートさんに探してもらいたい人がいるんです」
 度の厚いメガネ越しに隙のない眼差しを向ける30格好のその紳士に、デービッドはためらいがちに言った。
「人探しですかーー。それで、その人物の名前は?」
 ギルバート氏はソファに浅くすわり、少し前かがみの姿勢でうつむいているデービッドの顔をのぞきこんだ。
「チャールズ・ブラントという人です」
 デービッドが答えると、ギルバート氏は目を丸くしてとっさに身を起こした。
「チャールズ・ブラントですって?!」
 そう叫んだギルバート氏の声には、あきらかに名前の人物に対する深い親しみがこめられていた。デービッドはあっけにとられてたずねた。
「ギルバートさん。チャールズ・ブラントさんをご存知なんですか?」
 ギルバート氏は口元に笑みを浮かべ、軽くうなずいて答えた。
「ええ、知っていますとも!彼とは古いつきあいなのです」
 古いつきあいという言いまわしに、デービッドはチャールズ氏とギルバート氏がほぼ同年代であろうことに思い至った。
「そういえば、ギルバートさんと僕のお母さんは同い年でしたよね。チャールズさんも同じくらいの年齢ですか?」
 デービッドは父のロバートから、母とギルバート氏が幼馴染であることを聞いていた。だとすれば、チャールズ氏もまた母と顔見知りなのだろうか?
 いきなり番外編?と思われる方も多いとは思いますが、KURAMAの本編は書籍化を目標に現在執筆中です。そのため残念ながら、ブログ掲載ができません。
 ただ、この作品は個人的にも登場人物に思い入れが深く、番外編としてでも是非皆様に読んでいただけたらと思い掲載することにしました。毎回1話完結の短編となります。気楽に読んでいただくために、ややコメディタッチになっておりますが、ときどきシリアスな物語も掲載する予定でおります。
 皆様に楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ー登場人物紹介ー


  鞍馬
 鞍馬山の大天狗。(普段は鳶の姿をしている)
 鳶に姿を変えているとき、稲荷(稲荷神の眷属である百狐)に襲われ大怪我を負うが、通りがかった壇上 翼に助けられ、それ以後檀上家のいそうろうとなる。


  比叡
 比叡山の天狗。
 鞍馬を追って東京の檀上家に下宿する。普段は大学生の姿をしているが、たまにカラスに姿を変える。



  高尾
 高尾山の尼天狗。比叡の片思いの相手。高尾の意中の相手は……?


  檀上 翼
 都内有数の進学校に通う高校1年生。
 京都観光の途中で鳶である鞍馬を助ける。
 鞍馬が天狗であることを知っているが、鳶の姿のまま自室にいそうろうさせている。


   稲荷

稲荷神の眷属である白狐。
2000年を生き抜く妖狐だが、普段は高校生の姿をしている。
鞍馬を助けた翼に報復するため、彼の学校へと転校してくる。


   護法魔王尊

鞍馬寺の尊天のひとりで、鞍馬の主でもある。
見た目は16歳の美少年。そのまま年をとることのない永遠の存在である。


   ダーキニー 

 稲荷明神の本尊であるだきに天。稲荷の主。
ダーキニーは、もとは人の心臓を食らう夜叉であったため、怒りをかうと祟り神ともなる。
ときおり霊孤の姿となって徘徊する。



   木下のご隠居
 檀上家の近所に住む一人暮らしの老人。
 陰陽道に通じ、鞍馬や比叡の正体を知っているが口をつぐんでいる。
 謎の多い人物。



   檀上容子
 檀上翼の母親。翼が5歳のときに夫を交通事故で亡くし、以来、家の空き部屋を他人に貸すなどして生計を立てている。おしゃべりで世話好きな社交家。やや涙もろい面も。


  




Tag:*

 はじめまして、比叡です!
 出身は京都の比叡山。現在、檀上家に下宿し都内の某大学に通う学生であります!
ーーとは、世をしのぶ仮の姿でありまして、実は、わたくし天狗であります。
 それも比叡山の天狗。比叡山の天狗がなぜ東京に?と首を傾げた皆様方!!ごもっともであります。
 わたくしも、まさかこのような事になろうとは思ってもおりませんでしたゆえ。
 京都には天狗衆の総本山ともいうべき鞍馬山というところがありまして、ここに鞍馬の天狗と呼ばれる偉~い大天狗様がおられます。ところが、この大天狗様がある日稲荷の野郎に(稲荷とは稲荷紳の眷属で性格の悪~い白狐なのですが)ふいをつかれ、大怪我を負わされてしまったのであります。
 このとき、たまたま通りかかった檀上翼という少年が白狐を追い払い、鳶の姿をしておられた鞍馬の大天狗様を助けたのであります。 天狗というものは、人に助けられれば、必ず恩を返すものであります。そこで鞍馬様は檀上に望むことを何でも一つかなえようとおっしゃったのですが、少年はまだ自分は若く、頼み事を思いつかないと申しました。
 そこで義理がたい鞍馬様は、ならば頼み事が決まるまで彼の傍にいようとお決めになったのであります!
 でーー、なぜわたくしまで、東京に来る羽目になったのかと?
 それはですね。つまり、わたくしは鞍馬様の使い走りとでも申しますか、京都と東京を行き来する伝令の役目を鞍馬様に言いつかったのであります。なにしろ鞍馬様は偉い大天狗様ですので、京都でのお務めもたくさんおありです。特に護法魔王尊様のお召しがあった場合には、急ぎ駆けつけねばなりません。
 そんなことで、今日も鞍馬様は京都にお出かけになっております。
 そんなことで、わたくしただいま羽をのばしている次第であります。
ーーとのんきなことを申しておりましたら、翼殿の母君ー檀上容子様がおいでになりました。
「あら、比叡君。今日は講義がお休みなの?」
 話し好きな容子様は、食堂脇の談話室で茶を啜りだべっているわたくしを見つけ、話しかけてこられました。
「はぁ。大家さんはお買い物の帰りですか?」
 容子様は両手に提げていた買い物袋をよっこらしょ!と談話室のテーブルの上に置くと、わたくしの隣の椅子をひいて腰かけられました。
「ねえ、比叡君。ちょっとお使いを頼めないかしら?」
 わたくしが茶を飲み干すのを見計らって、容子様がそうおっしゃいました。
「比叡君は木下さんのお宅は知ってるかしら?そのご近所に持って行ってもらいたいものがあるんだけどーー」
 わたくしが返事をためらっていると、容子様はいたずらっぽい顔でわたくしの顔をのぞきこみ、買い物袋の中からケーキを取り出されました。
「比叡君、甘いもの好きだったよね?」
 おお!わたくしの大好きなイチゴのショートケーキにティラミス!!この報酬は魅力的であります。
「木下のご隠居さんのお宅ですよね。知ってます!」
「木下さんの家の二つ先に白タイル貼りのマンションがあるんだけど、そこの3階のお宅なの」
 容子様はそう言って、今度はケーキが入っていたのとは別な買い物袋の中から、包装紙に包まれたクッキー缶程度の大きさの包みを取り出されました。
「これをね、届けて欲しいの」
 もちろん、わたくしは二つ返事で承知し、大好きなケーキを頂いたのであります。

     *********


 容子様がおっしゃったマンションはすぐに見つかり、わたくしは階段を上り(このマンションは4階建てでエレベーターはございませんでした)届け先のお宅のチャイムを鳴らしました。
「はーい!」
インターホンから若い女性の声が聞こえました。
「檀上さんからのお届けものです!」
 なんだか、宅急便屋のお兄さんにでもなった気分ですが、こんな普通の格好をしていて怪しまれないかと心配しているところへドアが開きました。
「下宿していらっしゃる方ですよね?さきほど、檀上さんからお電話がありました」
 にこやかな表情で、そう優しく声をかけてこられた方のなんとお美しいこと!なんとわたくし好みな!!と鼻をを伸ばし、いたく感激しておりますと、今度は奥から小さな女の子の声で、
「お母さん。だ~れ?」
 ああああああ。やはり、そうきますか。やはり……。
 容子様のご友人なら、やはりお子様がいらして当然。しかし、この比叡、美しい女性には目がございません。なかなかショックから立ち直れずにおりますと、かの美しい方がおっしゃいました。




 

 「そうですね。チャールズとは同年代です。少しチャールズの方が私より年は上ですがーー」
 そう言ってギルバート氏は席を立ち、窓際に置かれた執務用の机のひきだしから一通の封筒を取り出した。彼はソファに腰かけているデービッドに歩み寄り、封筒を手渡して言った。
「中に写真が入っています。どうぞご覧ください」
 デービッドが封筒の中身を取り出すと、そこには1通の手紙とそれに添えられた写真が出てきた。
「これ、母さんの写真だね!」
 写真には、まだうら若いデービッドの母が写っていた。中央の椅子に腰かけている彼女の両脇に、青年らしい精悍な表情のチャールズ氏とギルバート氏が並び立ち写っている。
「デービッド様のお母君と私たちは、同じ町で生まれ育ちました。ですから、私もチャールズもお母君とは親しい間柄でございます」
 ギルバート氏は片手を胸に当て、デービッドに向かい軽くお辞儀をした。
「チャールズさんは大富豪だってクリスから聞いたけど、お祖父様とも親しいのかしら?」
 デービッドがつぶやくように言うと、ギルバート氏は苦笑いを浮かべて言った。
「親しいという表現が当てはまるかどうか……。ただ伯爵の事業には、幾度となく関わっております」
 デービッドは思いつめた顔でギルバート氏の顔を見つめた。
「ギルバートさん。僕、チャールズさんに会いたいんだ!」
 ギルバート氏は、怪訝そうにデービッドを見返してたずねた。
「デービッド様は、どこでチャールズをお知りになったのですか?」
 そこでデービッドは、昼間チャールズ氏の馬車に轢かれそうになったカラスを助けたことを話した。ギルバートは興味深げに話を聞いていたが、チャールズ氏に会いたいというデービッドの真意を測りかねるのか、釈然としない表情を浮かべていた。
「……探してもらえるかしら?」
 デービッドの真剣な眼差しに、ギルバート氏はようやく意を決して答えた。
「もちろんでございます。チャールズの立ち寄りそうな場所に心当たりがありますから、早速調べてみましょう!」
 ギルバート氏はそう言うと、穏やかな声でつけ足した。
「チャールズはきっと、デービッド様が会いたがっていると知ればとても喜ぶことでしょう!」
 デービッドは聡明な執事の言葉に一瞬困惑したが、持ち前の快活さは長く彼を不安に苛ませはしなかった。
 デービッドはチャールズ氏と会うときには、クリス老人とカラスも一緒に同席させたいのだとギルバート氏に告げた。ギルバート氏はとっさに何か言いたげな顔をしたが、結局あえて問うことはせず、「分かりました」とだけ短く答えた。



 矢切りの渡し


 連れて逃げてよーー。

 ついておいでよーー。


 高尾は、公衆電話BOXの中で受話器を握りしめたまま泣き崩れる若い女性の姿を、ずっと見つめていた。

 すでに夜の帳が落ち始めている神社の境内で、彼女は身じろぎもせずじっとその女性を見守っていた。隠れ蓑を外套に変え姿を消している高尾に、涙にくれるその女性が気づくはずもない。
 何故、そんなに泣くの?
 今の時代、道ならぬ恋などありはすまいにーー。
 高尾はしかし、とめどなくあふれる涙で顔をくしゃくしゃにした女性の横顔から目をそむけることができなかった。激しく嗚咽をこらえてはしゃくりあげる哀れな彼女の姿が、忘れかけていた記憶をーー切ない思い出を、高尾に思い出させていたからである。

 それは、時を遡ることざっと数百年前ーー。
 決して許されない恋というものが、まだこの世に存在していた時代のことである。
 当時の高尾はまだ若く、天狗としてようやく独り立ちが許されたばかりの頃であった。高尾山の山腹に天狗をまつるほこらがあり、彼女はそこに身を置くことを決意した。関東は家康がまつった稲荷明神の勢力があまねく世を席巻しており、天狗である彼女にとって決して安穏な任地ではなかった。それでも彼女はあえてこの地を選んだ。それはともすると見下げられがちな、尼天狗である彼女の意地もあったのかも知れない。
 ともかくも、高尾は夜昼となく関東平野いったいを飛び回り、よくその任を果たしていた。
 そうして1年が経とうとしていたある夜のこと、高尾はその二人に出会ったのである。

「連れて逃げてよ!」
 川岸の藪のなかから若い女の悲痛な叫び声がして、興味をひかれた高尾は近くの渡し場の上に舞いおりた。
 声のした方を見ると、藪の中に辺りに目を走らせしのびあう若い男女の姿がある。娘の方は装束から察するに、良家の息女と見受けられた。立ち居振る舞いから武家の出のように思われる。一方男の方はいかにもみすぼらしく、つぎはぎだらけの着物をまとった浪人風の男であった。
「お嬢様。わたくしについて来られたら命はありませぬーー」
「わたくしを置いていかないで!どうか後生だから、そんなことは言わないでちょうだい!」
 娘は浪人の袖にとりすがり嘆願していった。
「わたくしはあなたと、終生ともに生きて行こうと堅く心に決めたのです。ーーたとえそれが道ならぬ恋であろうとも」
 浪人は肩を落とし、うなだれていった。
「このようなことになろうとはーー。亡くなった父も、決してわたくしをお許しにはなりますまい」
 娘は浪人の背にしがみつき、声をおし殺しむせび泣いた。
 娘にしてもまた、彼女の両親を裏切ることに変わりはなかったからである。浪人は娘をかき抱き深く彼女にわびた。
 その時である。風にのり複数の人々の話し声が二人の耳にとどいた。とっさに彼らは互いに顔を見合わせ、息をひそめた。
ーー追っ手である。

 
 チャールズ・ブラントがマーシャル家の使いの者からギルバート氏の伝言を受け取ったのは、それから間もなくのことであった。それは機転のきくギルバート氏がすぐさま数通の招待状をしたため、チャールズが立ち寄りそうな場所に使いの者を走らせたからである。こういった点においてギルバート氏は実に抜け目がなく、かつ迅速な采配をふるえる男だった。
 手紙を受け取ったチャールズは、デービッドの招待客には自分だけでなくクリス老人も含まれていると知って少なからず驚いた。
 なんという偶然だろう!こちらから会う手筈を整えるつもりだったクリス老人に、好都合にも顔を合わす機会に恵まれたのである。その場に居合わせた屋敷の主も、思わぬ招待状の内容に目を見張った。そして自分も同席しようと申し出たが、チャールズは(呼び出されたのは自分ひとりだからと)これを丁重に断った。
 屋敷の主はやや不服そうな表情を浮かべたが、もとよりマーシャル家は招待もなしに気楽に足を運べるような場所ではない。チャールズが拒まずとも、彼が訪問するのはやはりためらわれることには違いなかった。
「何の用があってデービッドがきみを呼び出したのかは分からないが、マーシャル家に行けば伯爵ともお会いすることになるだろう。くれぐれも馬車の一件で伯爵の機嫌を損ねることがないよう気をつけたまえよ」
 屋敷の主はこういって、チャールズを屋敷から送り出した。


 ギルバート氏はチャールズ・ブラントあての手紙を使いの者に手渡したあと、応接間にいるはずのクリス老人をたずねた。
 彼が階下の応接間へとおりていくと、ちょうどメイド頭のセシリアが眉をひそめて応接間から出て来るのにでくわした。彼女はギルバート氏の顔をみるとすぐに平静さをとりつくろい一礼したが、セシリアが応接間の客に不愉快な感情を抱いているのは明らかだった。
 遠目に応接間をのぞきこむと、部屋の奥の暖炉脇の椅子に腰かけたデービッドとクリス老人とが、真剣な表情で何やらしきりに小声で話しこんでいる。クリス老人の肩には一羽のカラスがとまっていた。ギルバート氏は、セシリアが不快そうにしていたのはこのこのカラスのせいに違いないと思った。二人に近づいて行くと、彼らは靴音に気がついたのか、ふいに話をやめこちらを振り返った。
「ギルバートさん!」
 デービッドはギルバート氏に向かい、つとめて明るい表情と声で出迎えた。ギルバート氏はデービッドがチャールズに会いたい理由を述べないのは、クリス老人に関係があるのだろうと薄々勘づいていた。クリス老人への周囲の偏見の目は無論ギルバートもかねてから知るところである。
 ただギルバート氏本人は、この問題をあまり気にとめてはいなかった。クリス老人が動物と話ができるといっているのは、老人にとっての一つの信仰心のあらわれなのだろうととらえていたからである。
 他人の信仰を馬鹿にすることはできない、というのがギルバート氏の自論であった。
「チャールズに会う前に、一つお話しておきたいことがあるのですが……」
 デービッドとクリス老人の顔を交互に見つめながら、ギルバート氏はそういって胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
「これは10年ほど前、チャールズがデービッド様の母君に送った手紙です」
「母さんあての手紙をなぜ、ギルバートさんが?ーー」
 ものいいたげなデービッドを片手で軽く制し、ギルバート氏は手紙の中身について二人にかいつまんで説明した。
 それによると、チャールズはデービッドの母が所有している土地の一部を譲って欲しいという内容の手紙を送ってよこしてきたらしかった。執事であるギルバート氏はマーシャル家の財産に関しての管理を任されていたため、デービッドの母からこの手紙への返事も託されることとなったらしい。
 詳しいいきさつは分からないか、母君はチャールズが欲しがっている土地はメリル夫人が所有する土地のすぐ近くであったため、譲ることはできないという内容の返事をかえしたとのことであった。
「メリル夫人の所有されているファンタジーガーデンでは<名もなき花>が栽培されております。国の宝といわれるこの花の保存には、伯爵もとりわけ神経質になっておられますから、母君としても旧友の頼みとはいえ、おいそれとは同意しかねたのだと思います。ところがチャールズは、どうやらまだこの一件をあきらめてはいないようです。ふたたびこの町を訪れたのも、恐らくそれが目的なのではないかと思われます」
 話を聞きながら、クリス老人は肩にとまっているイジーの方に顔を向け囁き声で彼に事情を説明した。
「でもチャールズさんはなぜ、その土地を欲しがっているのかしら。ファンタジーガーデンというのは森の奥深くにあって、辺りに住む人もほとんどいないような場所なのでしょう?」
 つぶやくようにいうデービッドに、クリス老人は冷笑していった。
「きっと<名もなき花>を手にいれたいと思っているのでしょうなーー」
 比叡であります。
 本日は鞍馬様のご命令で、箱根まで来ております。
 どのような命令か?それはですねーー、ずばり隕石の探索であります!
 昨夜突如流星があらわれ、箱根方面に落下したという知らせが鞍馬様のもとにとどき、急きょこの比叡が隕石捜索の命をうけたのであります。意外に思われるかも知れませんが、実はわれら天狗にとって、未確認飛行物体および隕石の探索は大事なお勤めの一つなのであります。
 なぜか?それはわれらと同じ組成の生命体がこの地球に現れはしないかと常に監視するためなのであります。
 ご存知の方もおられるかとは思いますが、もともと天狗は護法魔王尊様によって造られた生命体であります。その護法魔王尊様は、100万年前に地球にやってこられた異星人であられます。それゆえわれわれの遺伝子も、地上の生命体とは異なる組成をしております。古くからの伝承にもあるように、われわれに神通力なる特殊能力が備わっているのもそのためであります。
 早い話、われらは異星人というわけですな。もっとも生まれはこの地球でありますから、地球を故郷とする異星人ということになりますか。
 ところで、地球にやってくる異星人のなかには非常に友好的な者とそうではない者とがおります。特にわれらと同じ遺伝子をもつ星人は、実は友好的な存在ではないのです。そのため彼らが地上の生物に危害を加えぬよう、われらが見張っているわけであります。
 そんなわけで箱根にやってきたのですが、知らせのあった地域の聞き込みを半日がかりで行ったにもかかわらず目撃情報はゼロ。隕石を見た人はもちろん、噂を聞いたという人も皆無というありさま。隕石の落下の場合は大抵何かしらの情報が得られるものなのですが、今回に関しては全く情報なしということですっかり頭を抱えておりました。



「あのーすみません。この土地の方ですか?」
 
 鞍馬様になんと言い訳したものかーー?
 と、考えをめぐらしつつ芦ノ湖の湖面を恨めしげに眺めていたわたくしは、ふいにそう声をかけられ後ろを振り向きました。見るとそこには観光客らしい若い女性の二人連れが立っておりました。道にでも迷ったのか、二人とも困惑の表情を浮かべております。
「いや、違いますが。ーー何かお困りですか?」
 

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