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 ギルバート氏はクリス老人に鋭い視線を投げかけた。
「<名もなき花>を領地から外に出すことには、マーシャル伯爵も反対しておられます。仮にメリル夫人がチャールズの申し出に応じたとしても、花を自由に運び出すことはできないでしょう。それで彼は、ファンタジーガーデンの近くに療養所を建設しようと考えたのです」
 話を聞きながら、クリス老人の表情はだんだんにくもっていった。デービッドは老人の表情が険しくなっていくのに疑問を抱き話しかけた。
「クリス、どうかしたの?」
 デービッドがそういうと、ギルバート氏も老人の表情の変化に気付き向き直った。
 クリス老人はいいにくそうに答えた。
「療養所を建てたところで、すべての人が<名もなき花>に癒されるとは限らないと思いますがーー」
 老人の言葉に、ギルバート氏は勢いこんでいった。
「無論、あらゆる病に効力があるとは彼も思ってはいないだろう。ただ、それでも重篤な病人の場合には、わらにもすがる思いということがあるだろうからね。何も手を施さぬまま病人が命を落とすというのは、家族にとっても辛いことには違いないからね」
 だが、クリス老人は冷ややかな口調でいった。
「わたしがいっているのは、病の重さのことではないのですよ。その病人が癒される資格を有しているかどうか、ということなのです」
 ギルバート氏は老人の言葉に驚き、声を上ずらせ聞き返した。
「癒される資格だって!?」
 けれどクリス老人は、肩にとまっているイジーを見つめながら穏やかな口調で続けた。
「このカラスは、わたしのところに運ばれてきた時はほとんど死にかけていました。しかし名もなき花の力で、今はこのように元気を取り戻しております。傷ついているのが純粋な動物の場合、名もなき花は実に驚くほどの癒しの力を発揮するのです。けれど邪な心をもつ人の場合にはそうはいきません。癒しの力を享受できる純粋な心が必要になるのです」
 デービッドは、たんたんと話すクリス老人の顔をくいいるように見つめた。
「ーークリス。メリルさんのところで、病気の人たちに出会ったことがあるの?」
 老人は力なくうなずいた。
「はい。たくさんの人が<名もなき花>の噂をききつけガーデンにやって来ました。ですがーー病が癒えた人々はごく一握りにすぎなかったのです」
 辛い思い出が老人の脳裏に甦ったのか、彼はそういったきり堅く口を閉ざした。
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