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 デービッドの母もまた、チャールズのようににメリル婦人を悩ませる原因となっているのだろうか?
 しかし、何よりデービッドを動揺させたのは、母が関わっているかも知れないという事実より、自分がメリル婦人と親戚筋に当たっていたという事実の方であった。 
 カラスのイジーをはじめ、動物たちにとってメリル婦人がどれほど大切な人物であるかは、マーシャル邸に集まったカラスの群れの多さをみても明らかである。そんな偉大な力を持つメリル婦人と、自分は親戚筋に当たるのだと知ったデービッドの胸には、驚きとともにある一つの大きな期待がふくらみ始めていた。

(僕にも、メリルさんみたいな不思議な能力が備わっているかも知れない!)
 彼の脳裏にそんな考えが掠めたーー
 
 デービッドは物心ついた頃から、動物が大好きな少年であった。
 そんなデービッドにクリス老人を引き合わせたのは、他ならぬ彼の母メアリーであった。
 メアリーははまだ5歳であった息子の手を引き、にこやかな顔で「動物とお話のできるおじいさんよ」とクリス老人を息子に紹介したのである。
 今にして思えば、母にとって動物と話のできる人は決して変人や、ましてや虚言癖のある人物などではなかったのであろう。もしかしたらメリル婦人だけでなく、ごく近親者にも特別な能力を持っている人物がいたのかもしれない。
 以来デービッドはクリス老人をたいそう慕うようになり、いつも老人の後ろをついてまわっては、動物たちとの話を聞きたがるようになった。子供のデービッドにとって動物と話せるという能力は、一種の魔法を使えるのにも等しかったのであろう。
 やがてデービッドは成長するにつれ、彼の周囲にクリス老人のことをよく思わない人々がいることに気付きはじめる。しかし常にクリス老人と動物たちとの会話を目の当たりにしてきたデービッドは、老人の不思議な能力を信じて疑わなかった。むしろ、その能力は神様からの素晴らしい贈り物だと老人に尊敬の念さえ抱いていた。
 
 母のメアリーはそんな息子の心を慮り、屋敷の使用人はもちろん出入りする人々にも、クリス老人を非難するような発言は自重するようにと厳しく注意を促した。
 そのお蔭でクリス老人は、庭師として長くマーシャル邸の庭を管理する職を得るに至ったのである。
 デービッドは窓辺に立ったまま、問い詰めるような口調で言った。
「クリス。名もなき花のことについてーー知ってることを全部ぼくに話してくれない?」
 クリス老人はデービッドの真剣な眼差しに、一瞬たじろぎ訝しむような目をしたが、すぐに穏やかな表情にもどり、小さく「はい」と頷いた。

ーー老人がデービッドに語った話。
 それは彼に深い尊敬の念を抱くデービッドですら、にわかには信じがたい話であった。



      *********



 チャールズ・ブラントは、玄関扉を開け彼を出迎えた人物を見て、思わず顔をほころばせた。
「ギルバート!」
 旧友を前にしたギルバートは、いつもの冷静沈着な顔を脱ぎ棄て少年のようにチャールズに駆け寄った。
「久しぶりだなあ!チャールズ。元気だったか?」
 互いに満面の笑顔を浮かべ、彼らは堅い抱擁をかわした。
「ああ、元気だとも。君も元気そうだなギルバート!」
 チャールズの弾んだ声に嬉しそうに頷きながら、ギルバートはチャールズの肩に腕を回して屋敷の方へといざなった。
「ーーところで、またメリル婦人と会うつもりなのかい?」
 屋敷内を案内しながら、ギルバートはチャールズに尋ねた。
「ああ。まだ諦めたわけじゃないのでねーー」
 チャールズの表情がやや翳るのを見て、ギルバートは話題を変えた。
「メアリーもずいぶん君に会いたがっていたよ。さっぱり顔をみせないと嘆いていた」
 チャールズは嬉しいような困ったような複雑な表情を浮かべつつ、頷いた。
「ところで、カラスを助けようとしたデービッドを轢きかけたらしいね?」
 ギルバートがそう言った時である。突然屋敷の裏手でけたたましい叫び声が上がった。
「あれは、メアリーの声だ!」
 そう言うが早いか、ギルバートは階段を駆け降り始めた。迷わずチャールズも彼の後を追う。二人は屋敷の1階まで降りると、手っ取り早く突き当りの窓によじ登った。そして体を折り曲げ窓から庭へと飛び降りると、全速力で屋敷の裏手へと向かって走った。ぐるりと屋敷を回りこみようやく裏手に出た二人は、迷路のように刈り込まれた生垣の向こうに、恐怖に顔を歪め立ちつくすメアリーの姿を見出した。
「メアリー……」
 そう声をかけようとしたときである。彼女の視線の先に目を向けた二人が、思わず息をのんだ。
「ーーまさか!!」
 そう叫んだのはギルバートであった。
 メアリーのすぐ目の前ーー生垣の途切れた芝生の上に、クリス老人が突っ伏すようにして倒れていたのである。
ーーおりから騒ぎ始めたカラスたちの鳴き声で、辺りは一種異様な空気に包まれたーー



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