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 (レグルスを帰すのが遅くなっては、メリルさんが心配するだろうなぁ・・・)
 ユノーは今日、レグルスを森の奥にある神秘の谷へと連れて行こうと思っていた。しかしこの分だと、帰って来る頃には日がとっぷりと暮れてしまうだろう。夕食の時刻までに、レグルスをメリルさんのもとまで送り届けるのは難しいかも知れない。
(仕方ない。神秘の谷へ行くのは、またの機会にするかー)
 いったんはそう決心してみるものの、道々レグルスが嬉しそうにしていた時の様子が目に浮かび、約束を違えるのがひどく気の重いことにも思われてくる。
(いやいや、メリルさんに心配をかけてはいけない!レグルスには良く言ってきかせることにしよう・・・)
 ユノーは、ファンタジーガーデンの主(あるじ)であるメリルさんと交わした約束を思い出し、揺らぐ心を戒めた。
(とにかく、今は急がなければー)
 ユノーが先を急ごうと、近道をとって森の渓流沿いの道へと出たその時であった。前方の藪が突然、風もないのにざわざわと揺らいだのであるー
 

 さてその頃、メリルさんの屋敷から飛び出したレグルスは、まっすぐにユノーの住む森へと向かっていた。
 明るい木漏れ日の射す林道を駆け抜けて行くレグルスの前方に、やがて忽然と姿を現す湖の水面ー。
 木々の間からのぞく青い水面は陽を受けてキラキラと輝き、空の青、濃い森の緑とあいまって美しい景色をなしていた。もうしばらく行けば、ユノーが好んで散歩道にしている茨の小道に出る。レグルスはよくここでユノーと落ち合い、気持ちの良い風の吹く湖の畔を散策するのを常としていた。
(ユノーはもう、友人と会えたのかしら?)
 レグルスは、今日ユノーが紹介してくれるという彼の友人に思いを馳せた。好奇心旺盛なレグルスは、ユノーが友人のことをあくまで秘密にするのに強く興味を惹かれていた。
(きっと、僕がびっくりするような生き物に違いない。もしかしたら、メリルさんが持ってる動物図鑑にも載っていないような、特別珍しい動物かも!)
 ユノーは以前、この世には動物図鑑には載っていない生き物たちがいるのだと、レグルスに教えてくれたことがあった。友人がどんな相手かユノーが内緒にするのも、図鑑に載っていない珍しい生き物だからなのかも知れない。
(メリルさんも言ってた。ユノーはとても賢く信頼できる友達だから、彼の言うことをよく聞いて学びなさいって)
 茨の道まであと少しというところまで来て、レグルスは数日前の嵐でなぎ倒されたらしい倒木が、道を塞いでいる場所へと出た。巨木のため小柄なレグルスが飛び越すのは無理そうだが、折れた枝が幹と道との間にはさまりわずかな隙間をつくっている。
 ここならレグルスにも通り抜けられそうである。
 レグルスができるかぎり身を低くして這うように倒木をくぐり抜けようとしているそのさなか、ふいに空の上から声がした。
「レグルス!レグルス!」
 驚いて見上げると、いたずら天使のラルフが、にこにこしながらこちらを見下ろしていた。
 彼は倒木のすぐ脇に立つ大きな木の高枝にまたがり、こちらに向かってしきりに手を振っている。


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