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「やっぱり、君かぁ!」
 唐突にそう言って、目の前の茂みをなぎ倒し現れたのは、身の丈3mはあろうかと思われる、全身毛むくじゃらの獣であった。灰色がかった長い体毛を揺らしながら歩くさまは、雄大な熊の動きを思わせるが、頑強な四肢以外は全て体毛の下に覆い隠され、まるで毛皮の塊が歩いているかのようだった。
 しかもその獣の発する声ときたら、猿が奇声を上げた時のような甲高い声で、その異様な外見と威嚇するような声を聞けば、傍目にはユノーに襲い掛かろうとしているようにしか見えなかったに違いない。だが幸いにも二人の再会を目にしていた者はなく、ユノーは、この毛むくじゃらの怪物を見て嬉しそうに大声で応えたのだった。
「スミス!よく来たねぇ・・・本当に久しぶりだなぁ」
 ユノーは灰色の巨体の獣を前にしても何ら臆することなく、すぐさま長い体毛に覆い隠された大木のような足にとりつき、親しげに身を寄せ頬ずりをした。これが彼なりの長年の知己に対する親愛の情の示し方なのである。
「何年ぶりかなぁ・・・。もう5・6年にはなるかね?」
 スミスと呼ばれた灰色の獣は、懐かしむような間延びした声でユノーに訊ねた。ユノーは、「うん、そのくらいにはなるね」と相槌をうって肯いた。
「ねえ、スミス。今日君に友人を紹介したいと手紙で伝えておいたろう?それで早速なんだが、一つ頼みたいことがあるんだ・・」
 ユノーは、彼の言葉に応えて身をかがめ地面にしゃがみ込んだスミスの頭の部分に走り寄り、前足で毛の下に隠れていた耳をかきわけると、その耳もとで囁きはじめたー。

 赤い鳥にお礼を言い、さよならを告げたレグルスは、先程までとは違いゆっくりとした足取りで姉妹岩へと向かって歩き出した。
 姉妹岩ならここからそう遠くはないし、赤い鳥の話では、まだユノーは彼の友人とは会えていないようである。それならば、急いで行く必要もないだろう、とそう思ったからであった。だが、彼の足取りを重くしたのは、それだけではなかった。彼に少し気がかりなことができたのである。
 レグルスはまだ「神秘の谷」に行ったことはなかったので、確信していたわけではなかったが、もしかしたら、今日は谷には行けないかも知れない、と思い始めたのである。以前、ユノーから聞いた話では、神秘の谷はちょうどファンタジーガーデンを囲むように連なる山脈の東の入り口にあるらしかった。
 そして同じように山脈の南の入り口にも、古くから鳶たちがねじろにしている「雪解けの谷」と呼ばれる場所があるのだが、ここには以前レグルスも、メリルさんとともに馬車で行ったことがあったのである。
(同じ山脈沿いにある谷だとすると、あれくらい遠い場所にあるのかしら?もし、そうだとしたら・・・)
 レグルスは、悄然として尻尾をたらした。
 彼は、ユノーの友人に会うのも楽しみにはしていたが、それ以上に「神秘の谷」に行けるのを、ずっと心待ちにしていたのである。

ー「神秘の谷」、それはとても謎めいた場所だった。
そこに行ったことのある者はみな、決してその谷のことを口にしようとはしない。それでいて、彼らの表情を見れば、語らずともその谷の素晴らしさが容易に見て取れるのだ。谷の話題になると、彼らは恍惚とした笑みを浮かべ、できることなら、もう一度訪れてみたい!と、彼らの目は語るのだった。
 しかし、誰もが谷に行けるわけではない。谷に招待を受けなければ、決して行くことはできないーと、かつてメリルさんも語っていた。


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