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湖の畔に着いたレグルスは、一瞬湖面に映った眩い光が目に飛び込み、思わず声を上げ目を細めた。
(それにしても、今日は良い天気だなぁ・・・)
 湖面に背を向け姉妹岩の方に歩み寄りながら、レグルスは大きなため息をついた。
(こんなに良い天気なのに、連れて行ってもらえなかったら残念だなぁ・・・)
 まだ姿を見せていないユノーに、いよいよレグルスは落胆を募らせた。いつの間にか彼の長い尻尾はすっかり垂れて、ずるずると地面にひきずられている。
と突然、誰かがレグルスに話しかけた。
「出かけるのを止めたらどうだい?」
いきなりそう声をかけられ、レグルスはきょろきょろと辺りを見回した。
しかし、声はすれども姿は見えず。ふとレグルスは、声の主が天使ラルフだと気がついた。
「ラルフ、どうして君は僕を止めようとするの?何かわけでもあるのかい」
 姿の見えない相手に向かって、レグルスはそう問いかけた。
 するとラルフがこう答えた。
「今日君が会うはずのユノーの友人を、僕は森の奥で見かけたのさ・・・」
 天使はそこまで言いかけたが、考え込むように口をつぐんだ。
「ユノーの友人がどうかしたの?」
 しびれをきらしたレグルスがふたたび訊ねると、一瞬間をおいてから、ラルフが押し殺したような声で言った。
「ー会うと怖い思いをするよ」
 ラルフの言葉に、レグルスはどきりとして言葉をつまらせた。
「え?・・・」
 しかし、レグルスには天使の言葉はにわかには信じがたいものだった。ユノーがレグルスにそんな怖い生き物を合わせようとするとは思えなかったからである。でも・・・、天使は嘘をついたりはしないものだ。
「君は、ユノーの友人の事を知っているの?」
「ああ、知っているよ。どんな生き物かも良く知っている」
「僕が怖い思いをするっていうのは、襲われるっていうこと?」
 レグルスは恐る恐るラルフに訊ねた。しかし天使はすぐには返事をしなかった。
「それは・・・君・し・だ・い・だね」
 含みのある言い回しに、なんとなく不快感を感じたレグルスは、やや剣のある口調で言った。
「じゃあ、襲われるとは限らないんだね?だったら、会いに行くのはやめないよ。僕は弱虫じゃないもの!」
 するとラルフもレグルスの態度に腹をたてたのか、不機嫌そうにこう言い捨てた。
「後悔しても知らないからね!」
 それきり、天使はレグルスに話しかけることはなかった。きっとどこかへ行ってしまったのだろう。
 レグルスは少しきまり悪い思いをしたが(ラルフが心配して声をかけてきたというのは分かっていたから・・・)、もうあれこれ悩むのはよそう!と決めて、姉妹岩の下にそっと身を寄せうずくまった。


      ********


「そんなことをして、レグルスが怖がりはしないかい?」
スミスは躊躇うようにそう言って、ユノーを見下ろした。
「大丈夫だよ。レグルスは勇敢だから、少しも心配することはないさ。それより、少しでも早く神秘の谷に到着する算段をしたいんだ」
ユノーはそう言って、大きく咳払いをした。
「僕の目に狂いはないさ!」
スミスは「分かったよ」と答えると、ユノーのあとについて湖に向かって歩き出した。
やがて二人は、ついに湖の畔にある姉妹岩が見える森のはずれまで辿りついた。姉妹岩のすぐ近くにうずくまる小さな茶色の毛の犬ーレグルスの姿もすぐに見つけることができた。ユノーは背後のスミスに身をかがめるよう前足で合図を送りながら言った。
「僕が先にレグルスに会うから、君は僕が合図するまでこの茂みに隠れて待っていてくれ」


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