上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  •   --, -- --:--
ふと後ろでもの音がして、うとうとしていたレグルスは咄嗟に飛び起き身構えた。
ぐるると低い唸り声を上げ、素早く後ろを振り向く。が、彼の目に映ったのは、ぎこちない笑顔で片手を挙げ立っているユノーの姿であった。
「ユノー?!」
 レグルスは気の抜けたような声を上げ、笑っているユノーを恨めし気に見つめた。
「もう、友達とは会えたの?」
 レグルスが訊ねると、ユノーは後ろを振り返り、スミスが身を潜めている茂みを指差して言った。
「あそこの茂みにいるよ。恥ずかしがり屋だから、いつも人目につかない所に姿を隠す癖があるんだ」
 そう言って湖の周囲をゆっくりと見回すユノーに、レグルスはずっと気になっていたことを訊ねた。
「今日、神秘の谷へは行けるかしら?」
 するとユノーは少しの間考えこんでいたが、「うん、たぶん行けるだろう・・・」と答えた。
 たちまち、レグルスは嬉しくて飛び跳ねたい気分になった。尻尾を大きく左右に振って、確かめるようにユノーに問いかける。
「神秘の谷って結構遠くにあるんでしょう?今から行って、夕食の時間までに家に帰れるかなぁ」
 ユノーはそんなレグルスを黙って見つめていたが、やがて「レグルス・・・君にやってもらいたいことがあるんだ。もしそれをやってくれたら、神秘の谷へ行っても必ず夕方までにはここに帰って来られるはずだよ」と話を切り出した。
「僕にやってもらいたいこと?それって一体どんなこと?」
 レグルスがやや不安そうな声で訊ねると、ユノーは「簡単なことだよ。ただ、これは友人のスミスと一緒にやってもらうことになる。だから、スミスに慣れてもらわないと困るんだ・・・」と言って、さきほどの茂みの方を振り返った。しかし、レグルスはますます不安げな声になり、つぶやくように言った。
「ねえ、ユノー。僕さっき天使のラルフに言われたんだ。君の友達に会うと・・・その、怖い目に合うってね」
 一瞬、ユノーは強張った表情で俯いたが、やがて静かな声で言った。
「わたしは、君を傷つけるようなことは決してしないよ、レグルス。ただ、これだけは知っておいてもらいたいんだ。冒険をしようと望むなら、勇気が必要だということをね!」
 レグルスはユノーを見つめ返し、詫びるように言った。
「ごめんなさい、ユノー。君を疑うようなことを言って。僕やってみるよ!だから、君の友人スミスに僕を紹介してくれるかな?」
 これを聞くと、ユノーはほっとした様子で答えた。
「もちろんさ。さあ、みんなで神秘の谷に行くぞ!」
 ユノーの弾むような声に、レグルスもつい嬉しくなり尻尾を高く掲げて笑った。


     ********


 レグルスはユノーの指図通り、両目を閉じて湖の方を向いて立っていた。
「いいかい、このままじっと耳を澄まして待っているんだ。すると岸に向かって近づいてくる音、水面の波立つ音が聞こえてくるはずだ。君は耳がいい。だから音で、すぐ近くまで来たことが分かったら目を開けろ。そうして湖から飛び出してくるものにしっかり飛びつくんだ。いいね、決して恐れてはいけない!必ずしがみついて、決して離れないこと」
 ユノーはそう言ってレグルスを湖岸に立たせ、自分はスミスを待たせているからと言って、茂みの中へ入って行ったのだった。湖から飛び出てくるものが何なのかは、ユノーは教えてくれなかった。黙っているところをみると、きっと勇気をふり絞らなければつかむことができないものなのだろう。
 なんとも心細い気持ちになるが、湖から出てくるものをつかむとき、友人のスミスも手伝ってくれるらしかった。
 ユノーは、「スミスはとても温厚なやつだよ。でも外見は少し怖いように見えるかも知れない。だからといって、彼を恐れてはいけないよ。そして協力して、湖から出てくるものをしっかりつかむんだ!」と言って、レグルスの肩を軽く叩いた。
「大丈夫だよ。僕を信じて任せてくれれば、きっとうまくいく!」
 しばらくして、レグルスの耳に湖面がわずかにざわめく音が聞こえてきた。
 まだ、湖岸までは少し遠い。だが、確実に少しずつ・・・少しずつこちらに近づいてくる。もうじきだ。音はもう、すぐ近くまで来ている!
次の瞬間、レグルスは大きく目を見開いた。
すると彼のすぐ脇に、見たこともない巨大な灰色の獣が立ち上がり、湖から飛び出て来ようとする獲物を待ち受けているのが見えた。そのあまりに恐ろしい顔に、レグルスは全身が総毛立つのを覚えた。


 ブログランキングに参加しています。
 ポチッと押していただけると更新の励みになります!

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


ファンタジー・SF小説 ブログランキングへ
スポンサーサイト
昨日から、ママは実家にご用があって里帰り。
ということで、パパが会社に出かけて留守の間、久しぶりに明お兄ちゃんが真子の面倒を見に来てくれることになった。真子は大喜びである。

「ねえ、明お兄ちゃん。真子にも魔法って使えないのかな?」
 リビングでボール遊びに興じていた真子は、急にくわえていたボールを放し、唐突にお兄ちゃんに訊ねた。駄目は承知のお願い・・・でも試しに、どうしても真子は訊いてみたかったのである。するとお兄ちゃんは真子の顔を穴が開くほどじっと見つめていたが、しまいにポツリとこう言った。
「無理ということもないだろうよ」
 意外な返事に、真子が勢いづいて訊き返す。
「じゃあ、真子も練習すれば魔法を使えるようになるの?」
「ああ、使えるようになるよ」
 お兄ちゃんはさらりとした顔で返事すると、背筋をのばし、椅子の背もたれに深く座りなおした。
「どうしたらいいの?」
 真子は興味津々でお兄ちゃんの顔を凝視する。
「ママも僕も、以前は魔法なんて使えなかったんだよ。だけど、ある人に魔法の使い方を教わって、それで使えるようになったんだ」
「へえ・・・、そうなの?」
 真子が立ち上がって前足を自分の足にかけるのを見て、お兄ちゃんは真子を抱き上げ膝の上に乗せて言った。
「でもね、大切なのは何故魔法を使いたいのか?ってことなんだ。僕らに魔法を教えてくれた人は、その理由がとても大切だって言っていた。真子ちゃんは、どうして魔法を使えるようになりたいなぁって思ったの?」
 真子は返事に迷った。魔法を使いたい理由って言われても、特別な理由があるわけではない。ただママが指をくるくるっと回して呪文を唱えると、いろんな事ができるのを見て、とても羨ましく思っていたからなのだ。でもそんな理由を言ったら、きっと魔法の使い方を教えてくれたりはしないだろう。真子はそう思い、しゅんとして俯いた。
「真子ちゃん。僕は叱ってるわけじゃないんだよ。ただ、魔法ってね。使う人によって、良い魔法にも悪い魔法にもなるんだ。だから、使う時はよく考えて使わなければならない。分かるかな?」
 真子は上目づかいにお兄ちゃんの顔を見上げて肯いた。
「真子ちゃんには魔法はまだ早いかも知れないね・・・」
 お兄ちゃんはそう言って、どこか遠くを見つめるような目をした。
「大きくなって、いろんな悲しい思いや辛い思いをいっぱいして、そうしたらどんな魔法が必要かきっとわかるようになる。その時は僕が、真子ちゃんに魔法を教えてあげるよ」
 真子は明お兄ちゃんの言う、いろんな悲しい思いや辛い思いをしたら・・・という話に、なんだかとても気が重くなってしまった。魔法が使えなくてもいいから、できればそんな思いはしたくないと思ったのだ。
「明お兄ちゃん。魔法を使えなくてもいいから、真子はできればいろんな悲しい思いや辛い思いをせずにいたいな・・・」
 つぶやくようにそう言うと、お兄ちゃんは優しい眼差しでこう言った。
「そうだね。真子ちゃんは今のままずっとこの家にいて、ママやパパと一緒に暮らしてさえいれば、きっと幸せでいられると思うよ。魔法なんて使えなくても、その方がずっといいと僕は思うよ」
 お兄ちゃんの言葉に、真子はようやく明るさを取り戻し、元気な声でワン!と答えた。そしてお兄ちゃんの膝の上からぴょんと飛び降りると、さっき床に落としたきりのボールを急いで取りに行った。
「明お兄ちゃん。もう1回ボール遊びして!」
 真子はそう叫ぶと、拾ったボールを口にくわえ、ふたたび明お兄ちゃんのところへと駆け寄って行ったのであった。


 ブログランキングに参加しています。
 ポチッと押していただけると更新の励みになります!

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


ファンタジー・SF小説 ブログランキングへ

そのときであった。
すぐ目の前の湖面で大きなうねりが起き、レグルスははっとして湖をのぞいた。すると水面下に身をくねらせる巨大な黒い影がーー。
そう思った矢先、影はいっきに水面まで浮上すると激しく水面をうち叩き、勢いよく上空へと跳ねたのである。それは頭から尾びれまでの長さが5~6mはあろうかと思われる大物の鮒で、怪物はぱっくりと大口を開け、レグルスめがけて跳び出して来たのであった。
 レグルスは恐怖に青ざめ、たちまち逃げ出しそうになったが、「決して恐れてはならない!」というユノーの言葉が脳裏をよぎり、すんでのところで思いとどまった。
「そうだ、レグルス。鮒の尾びれにしがみつくんだ!」
 そんなレグルスに、大声で声援を送ったのはユノーであった。
 レグルスが声のする方を見ると、なんとユノーは灰色の獣スミスの頭の上に乗って、こちらを見返しているではないか。
「ユノー!」
 レグルスがそう叫んだのと、彼を呑み込もうと跳び上がった大鮒にスミスが飛びかかったのは同時であった。
 スミスは大鮒の横腹に爪をたてて前足で押さえ込み、そのまま地面へとねじ伏せたのである。レグルスもすかさず尾びれに跳びつき懸命に押さえつけた。大鮒は幾度ももんどりうって抵抗を試みていたが、やがて自分を押さえつけている獣を振り払うことはできぬと観念したのか、急に動かなくなった。
ユノーはスミスの頭の上に乗ったまま、ずっとそんな大鮒の様子をうかがっていた。
やがてしばらくすると、大鮒は弱々しい声で口を開いた。
「もう堪忍してください。その犬を襲ったことは謝りますから・・・」
 ぽつりとつぶやいたその声が、人のものであったことにレグルスが驚いていると、大鮒の姿はみるみる若い女の顔をした人魚へと変わっていった。
「さて、どうしたものかな?」
 ユノーは大鮒が姿を変えたことに別段動揺するでもなく、人魚を見据えたまま思わせぶりにそう言った。
 人魚は顔をしかめ縋るような目で、「わたしにできることは何でもしますから、どうか見逃してください・・・」とユノーを見上げ懇願した。するとユノーは「では一つ、頼みを聞いて貰うことにしよう」と言って、人魚を睨み付けた。
「わたしたちを背中に乗せて、神秘の谷まで運んでもらおう。お前なら谷への近道を知っているだろうからね」


ブログランキングに参加しています。
ポチッと押していただけると更新の励みになります!

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


ファンタジー・SF小説 ブログランキングへ


WHAT'S NEW?

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。