上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  •   --, -- --:--
 人魚はためつすがめつユノーの顔色をうかがい思案していたが、しびれをきらしたスミスが威嚇するように唸り声を上げた途端にひるみ、諦め顔に「分かりました・・・」と承知した。
「けれど神秘の谷へ行くには、いったん川から上がり森を抜けなければなりません。わたしは陸へ上がることはできませんから川岸までしかご案内できませんが、それでよろしいですね?」
 刺すような視線をレグルスに向けながら、人魚は意味ありげにそう念を押した。
「心配は要らない。神秘の谷への道順なら心得ているからね。こう見えて、おまえよりは余程わしのほうがもの知りなのさ!」
 ユノーはせせら笑うような口調で人魚をいなし、スミスの鋭い爪を指差して言い足した。
「それに神秘の谷に住むもののけを恐れぬ、頼もしい仲間もいるのでね」
 人魚は憮然とした顔で、肩をすくめてみせた。そして体をねじるように跳びはねたかとと思うと、あっという間に、さきほどの大きな鮒の姿へと変わったのである。ユノーはスミスの頭の毛を両腕でしっかりとつかむと、左右の毛を交互に引っ張りながら、スミスに何やら合図を送った。スミスはそれに答えるように一声大声を上げると、大鮒の背びれを抱きかかえるようにして跨った。続いてユノーは、鮒の鱗に爪をかけながら、懸命によじ登ろうとしているレグルスに声をかけた。
「レグルス!スミスの尻尾をしっかり噛んで離さないようにするんだ。スミスの体はとても固いから、きみが噛んだぐらいではちっとも痛くなんかないからね。それより川の急流で大鮒から落ちて流されないよう、しっかりつかまっているんだよ!」
 こうしてスミスの頭に乗ったユノーと、スミスの尻尾に噛みつきつつ鱗に爪をたてて取りついているレグルスを背に、大鮒は2、3度川岸で跳ねて弾みをつけると、勢いよく川の中へと跳び込んだのであった。

 やがて水面まで上昇し、レグルスたちが水上に顔を出せるくらいの深さを維持して泳ぎ出した大鮒は、川の中央まできたあたりでユノーに声をかけた。
「神秘の谷へ行くには、向こうの洞窟を抜けていくのが早いのですが、かなりの急流ですし、水面に浮かびながら泳ぎ続けることは難しいかもしれません。どうしますか?」
「構わないよ。洞窟を抜けて行ってくれ」
なんの躊躇いもなく、ユノーはそう答えた。けれどもレグルスは内心不安に駈られた。ずっと息を止めていられるかしら?そう思うと心配でならない。こうしている間に、驚くほどの早さで泳いでいく大鮒は洞窟に着いてしまうだろう。レグルスは少しの間くわえていたスミスの尻尾を離し、ユノーに語りかけた。
「ねえ、ユノー。僕、水の中でずっと息を止めていられるか心配だよ。ずっと洞窟を抜けるまで辛抱できるかな・・・?」
 するとユノーは、まるで頓着していない様子で言った。
「大丈夫だよ。スミスにつかまってさえいれば息は苦しくならない。きみがスミスの尻尾に噛みついてさえいれば、水の中にいてもちっとも苦しくはならないんだよ」
 レグルスは驚いて聞き返した。
「え!どうして苦しくならないの?」
 するとユノーは、いたって平静な声で答えた。
「スミスはもののけの仲間なんだよ。だから一緒にいさえすれば、不思議な力がきみにも備わるんだ・・・」
 ユノーの言葉の意味は、その後すぐにレグルスにも分かった。それは彼らの行く手に、川の流れを阻むようにそびえ立つ絶壁を望んだときのことである。絶壁に近づくにつれ、その崖の下にわずかに口を開いている洞窟があるのが見てとれた。これが大鮒の言っていた洞窟か?とレグルスが見入っていると、にわかにスミスの体が淡い光を帯び始めたのである。それは暗闇に住むもののけが放つとされる青白い光であることを、レグルスは悟った。その時だった。
 ザブーン!
 いきなり大鮒は、しぶきを上げながら水中深くへと潜っていった。レグルスは驚いて目を閉じ息を止めた。しかしすぐに苦しくなって目を開けると、大鮒が洞窟の方へと急いで行くのが分かる。もうこれまでーー。苦しさに堪えきれず、ついにレグルスは口を開いた。ところが、不思議なことに息が苦しくない。確かに口のなかにどんどん水が入ってきているのに、ちっとも苦しくならないのだ。驚いてユノーを見ると、彼もこちらを見下ろしてしきりに手を振っている。ユノーが言っていたのは本当だったのだ。スミスのもつ不思議な力が、ユノーやレグルスにも備わっていたのである。

 
スポンサーサイト

WHAT'S NEW?

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。