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穏やかな日差しが射しこむ古い松の木のほこらに、青色帽子の妖精の家がありました。
この松の木は、海を一望できる小高い丘の上に立っていました。ですからほこらからの眺めは抜群で、青色帽子の妖精はそこが気に入って、ここに家をこしらえたのでした。彼の自慢は木の幹をくり抜いて作った4つの丸い小窓。1日の始め、朝起きてこの窓からの素晴らしい景色を眺めるたび、彼はいつもとても幸せな気持ちになるのでした。
そんな見晴らしの良い青色帽子の妖精の家を訪ねて、ある日緑色帽子の妖精が訪ねて来ました。

緑色帽子の妖精
「好いお天気だね!青色帽子くん。今日はオレンジ帽子くんは来ているかい?」
青色帽子の妖精
「ううん、来てないよ。オレンジ帽子くんなら確か、5番町通りまで出かけるって言っていたように思うけど」
緑色帽子の妖精
「そうか・・・。青色帽子君は、今日は出かけないの?」
青色帽子の妖精
「ああ、僕は・・・、ちょっと済ませておきたい用事があってね」
 青色帽子の妖精はそう言って、書斎の机に腰かけ熱心に何かを書き始めました
緑色帽子の妖精
「誰かに、手紙を書いているの?」
青色帽子の妖精
「うん。昨日、古い友人から手紙が届いてね。今、その返事を書いているんだ」
緑色帽子の妖精
「へえ、そうなんだ。こんな時、人間たちなら携帯のメールで済ませてしまうんだろうね」
青色帽子の妖精
「そうだね・・・。携帯メールなら返事が早くて便利だろうけど、ぼくらには必要ないね。急いでいる訳じゃないし、それにメールのやりとりがトラブルの原因になることもあるみたいだからね」
緑色帽子の妖精
「以前人間たちが手紙でやりとりしていた頃は、もっとゆったりとした付き合いをしていたような気がするね。でも今は、なんだかとても忙しない感じがする・・・」
青色帽子の妖精
「ぼくら妖精は、ゆったりと時間を過ごすことをとても大切にする。だから携帯メールは必要ないね。相手と連絡が取れるまでは、別な事をして時間を過ごすし、ときおり思い出しながら待つのを、楽しみにさえ思う」
緑色帽子の妖精
「今の人間たちは、メールを送った相手からすぐに返事が来ないと、苛々して腹をたてるらしいね」
青色帽子の妖精
「それはいけないね・・・」
緑色帽子の妖精
「どうやら人間たちは、時を楽しむことができなくなってしまったようだね」
青色帽子の妖精
「人間の世界では、何事も飛ぶように過ぎていくんだ。<時間に追われる>って言葉を彼らはよく使っているね」
緑色帽子の妖精
「でも時間をかけるってことも、とても大切なことなのにね。森の木々は長い年月を生きることによって、より成長し周囲のさまざまな生き物の命をも育む。秋には葉を落とし、大地から姿を消してしまう小さな草花だってそうだよ。年を経るごとに地にしっかりと伸びていく根のおかげで、春を迎え芽吹いた葉や茎がより大きな株となり、たくさんの花を咲かせるんだ。人と人との関係もそうなんじゃないかな?お互いの絆をより深めるためには、時間が必要な気がするよ」
青色帽子の妖精
「時の過ごし方について、人間たちにもっと違う考え方も持って欲しいね」
緑色帽子の妖精
「豊かな時の過ごし方が、豊かな人生にも結びつく。そのことに早く気づいて欲しいよね・・・」


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 本日は、ミュージカル「キャッツ」の原作となった詩の作者、T.S.エリオットをご紹介しようと思います。彼の代表作「キャッツ」は、これまでの詩とはまったく趣を異にした作品です。
読めば思わず笑みがこぼれるこの詩は、コミカルで誰もが親しみやすく、詩の世界がじつに多様性に満ちていることを垣間見させる作品と呼べるでしょう。
 20世紀のアメリカを代表するノーベル賞詩人エリオットが、この詩集を出版したのは51歳のとき。円熟期を迎えた詩人が、このような愛すべき詩を書いたという事実は、詩の世界がもつ無限の可能性というものをわたしたちに感じさせてくれます。
それでは「キャッツーポッサムおじさんの猫とつき合う法」から、「あまのじゃく猫ラム・タム・タガー」をどうぞお楽しみください。


あまのじゃく猫ラム・タム・タガー

ラム・タム・タガーは、あまのじゃく。
雉をやるといえば、いや雷鳥のほうがいい。
一戸建ての家に住めば、住むならマンションにかぎる。
マンションに暮らせば、暮らすなら一戸建てでなきゃーー。
子ねずみをけしかけりゃ、大きいねずみが欲しい、
大きいねずみをけしかけりゃ、子ねずみが俺の好みだと全くうるさい。

うむ、ラム・タム・タガーって、あまのじゃくーー
どやしつけても無駄なこと。
いつもやりたいことばかり、
やりたいようにしでかして、
これじゃ、どうにもお手上げだ!

ラム・タム・タガーはやっかい猫。
家に入れると、外に出たがり、
ひそむは、いつもドアの向こう。
家に戻ると、すぐにも出てゆくそのしぐさ。
机の引き出しで寝るのが大好きで、
そこから出るのにひと騒動。

うむ、ラム・タム・タガーってあまのじゃくーー
みんなが、あいつを変てこ猫だと決めつける。
いつも、やりたいことばかり、
やりたいようにしでかして、
これじゃ、どうにもお手上げだ!

ラム・タム・タガーは、あまのじゃく。
人間様の気持ちに逆らうのが、習い性。
魚をやれば、もっとうまいものをくれ。
魚がなければ、うさぎの肉にも、
ミルクにも、鼻をならして、お見限り。
探したえさしか受けつけぬ。
でも、食器棚の上にえさを見つけた日にゃ、
耳元まで皿につかって、むさぼり食う。

ラム・タム・タガーは、抜けめない。
人に抱かれるなんて、まっぴらご免。
でも、お裁縫していれば、ひざの上に飛び乗って、てんやわんやのお騒がせ。

うむ、ラム・タム・タガーは、あまのじゃくーー
どやしつけても無駄なこと。
いつも、やりたいことばかり、やりたいようにしでかして、
これじゃ、どうにもお手あげだ!


 妙な気分だった。
 魚がえら呼吸するように、のどを通る大量の水もまるで気にならない。じっと水中を見回すうち、レグルスは自分が別な生き物に生まれ変わったような気がした。陸とはまるで違う水中の眺め。彼をとりまくどこまでも広く青い世界。さらにその青い背景に美しく色を添えているのが、群をなして揺れる水藻の緑であった。それらが、天から降りそそぐ太陽の光を受け照り映える様にレグルスはうっとりとみとれた。
 しばらくして大鮒は洞窟の奥へと流れ込む急流に乗り、矢のような速さで泳ぎ始めた。3匹は慌てて鮒の背にしがみつく。こんなところで油断をして、うっかり流されては堪らない。
「レグルス、大丈夫かい?」
 心配したユノーがレグルスに呼びかけた。
「うん、大丈夫だよ!」
 レグルスがスミスの尻尾をくわえたまま、くぐもった声で答える。
「洞窟を抜けるにはしばらく時間がかかる。その間はずっと流れも早いから、わしが声をかけるまでは決して気を抜かないようにな!」
 ユノーはそう言い終わると、たちまちスミスの頭の毛の中へともぐりこみ姿を消した。
 洞窟の中は、至る所にごつごつとした岩が突き出て穴を狭めていた。岩のすぐ横をかすめるように通り抜けるたび、レグルスは何度も悲鳴をあげそうになった。だが恐ろしい程の速さで泳いでいるにもかかわらず、大鮒は絶妙のタイミングでそれらの岩をかわして進んでいく。どうやって岩をよけているのか、レグルスには皆目見当もつかなかったが、大鮒を案内役につけたユノーの賢さには改めて感服した。
「皆さん、この先はとても通路が狭くなっています!振り落とされないように、しっかりわたしにつかまっていて下さいよ」
 大鮒がそう言った直後だった。
 突然、目の前の通路がこれまでとは比べ物にならないくらい狭くなり、レグルスは恐ろしさのあまり目を閉じた。
 と、次の瞬間である。レグルスは自分の体が水中から飛び出し、ふわっと宙に浮くのを感じて目を開けた。
「ウワーッ!」
 眼下の景色に驚嘆し、レグルスがたまらず悲鳴を上げた。
 なんと彼らは大鮒の背に跨ったまま、真っ逆さまに巨大な滝壺へと落下していこうとしていたのである。
 ほんの数瞬が数分にも感じられるほど、時間がスローモーションで流れ去った後、彼らは叩きつけられるような衝撃を体に感じて水中へと放り出された。
 大鮒から振り落とされたレグルスを追って、スミスが目を見張るほどの速さで泳ぎ寄り彼を抱きかかえる。案の定レグルスは意識を失っていた。スミスはレグルスを自分の背中に乗せると、水面に浮上してゆっくりと川岸の方へと泳いで行った。その様子を離れた所から大鮒がじっと見つめている。やがてスミスの頭上に立ったユノーが大鮒を振り返り彼に合図を送ると、大鮒は勢いよく水面高く跳ね上がってそれに応えた。そしてふたたび水中深く沈んだかと思うと、そのままどこかへと消え去っていったーー。

「スミス、レグルスは気を失っているようだ。このまま目を覚ますまでそっとしておいてやろう。森の奥で待っているもののけたちを振り切るのは、わしらだけの方が都合がいいだろうからね・・・」
 スミスの肩を滑り降り、レグルスの顔に近寄って眺めながら、ユノーは静かな声でそう言った。
 スミスは小さく肯いて、レグルスを川岸の木陰へと運びそっと下ろした。
「ユノー。彼を本当に森の守り主に会わせるつもりなのかい?」
 レグルスの頬に鼻をつけ、しきりに様子をうかがっているユノーを見下ろしながら、スミスは唐突にそう訊ねた。


道がすいていたこともあり、宿に着いたのは午後4時過ぎ。ほぼ予定通りの時刻だ。
ただ日中は陽差しも出ていたが、この頃になるとまた灰色がかった厚い雲がすっかり空を覆っていた。宿の駐車場に車を止め後部座席の荷物をおろしていると、まずいことにぽつぽつと雨が降り出した。今夜打ち上げられる洞爺湖の花火を心待ちにしていたわたしの胸に不安がよぎる。
チェックインを終えると、部屋係の男性が先に立って館内を案内してまわった。部屋まで案内されたところで、雨でも花火は打ち上げられるのかと訊ねてみる。すると雨でも花火は上がりますとの返事。それならばとひとまず胸をなでおろす。
夕食の時刻まで少し間があるので、それまで愛犬を連れて宿の周辺を散歩することに。
この宿は洞爺湖畔に位置しており、桟橋までは数分の距離だ。傘をさして宿を出ると、すぐ前の道路がゆるやかにカーブした坂道になっており、そこを下りて行って桟橋まで行き、そこからは気の向くまま湖に沿って南の方角へと歩いていった。ところが時間が経つにつれ雨がしだいに強まってきた、愛犬にはレインコートを着せてあったが、あまり雨足が強まると頭や尻尾がずぶぬれになりあんばいが悪い。仕方なく散歩を止め宿へと引き返すことに。
部屋に戻り、愛犬の濡れた体を吸水性の好いタオルで十分拭き取る。部屋が畳敷きなので、濡らしてはまずかろうとこちらも気をつかう。
やがて夕食が部屋に運ばれて来る頃になると、外はどしゃぶりになっていた。だが、花火を見るには桟橋まで出向いた方が眺めは良い。そうなると、ずぶぬれになってしまう相棒を部屋に置いていったものかどうかと頭を悩ます。
 夕食もすみ、部屋のテレビを見て時間をつぶすうち花火の始まる時刻となった。窓を開けて外の様子をうかがうと、幸い雨はほとんどこやみになっていた。この程度なら愛犬を連れていっても問題なさそうだ。ふたたび外出の支度をし、相棒に首輪とリードをつけてやると、彼女は嬉しそうに声を上げ、くるくると何度も部屋を走り回った。

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ドーン!ヒュルヒュルヒュル~!
次々と打ち上げられる夜空を彩る大輪の花火たち。辺りに響き渡る轟音に、さしもの相棒も度肝をぬかれたか、吠える気力も失せた様子。神妙な顔つきで尻尾を丸め、しがみつくように足元にすり寄って来る。わたしは傘を閉じて彼女を抱き上げ、体を撫でてやりながら美しい夜空の祭典に酔いしれた。

翌朝宿をあとにすると、昨夜花火を眺めたあの洞爺湖を、今度は船上から楽しもうと遊覧船に乗り込んだ。
汗ばむほどのお天気に恵まれた遊覧船のデッキで、洞爺湖の中央に浮かぶ丸みを帯びた3つの島を眺める。
洞爺湖はこれだけ北に位置しながら、1年を通して凍ることがないという。先住民族アイヌの伝説を船内放送で聞きながら、古(いにしえ)のアイヌの人々の目には、この雄大な湖がどのように映ったのだろうかとしばし思いを馳せる。

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船を降りると、次の目的地である函館へと車を走らせた。
移動に時間がかかるため、昼食はサービスエリアですまそうと街のレストランには寄らず迷わずす高速に。しかしこれが失敗だった。昼間近になってサービスエリアを探すもあるのはパーキングエリアばかり。試しに2回ほどパーキングエリアに立ち寄ってみたが、あるのはトイレと自動販売機のみで食事処はおろかコンビニ程度の店もない。
焦って道路地図を見ると、函館までのルートにはサービスエリアがないことが分かった。やむなくいったん高速を降り、近くのコンビニでサンドイッチやおにぎりといった軽食を買い込み車中で食べることに。
首都圏近郊の高速道路とは勝手が違うことを知り、事前に調べておかなかったことをつくづく後悔する。

函館へ着くと、まっさきに五稜郭へと向かい愛犬とともに敷地内を1周。
五稜郭内は函館市民の憩いの場だそうで、花見の季節にはここでジンギスカン料理を食し酒宴に興じるのだそうだ。有名な観光地でありながら、ペットの散歩を認めるおおらかさに愛犬家としてはおおいに感謝の念に堪えない。
周囲を濠で囲まれた五稜郭を、入場前に撮影しようとカメラをのぞくと、またも空にうっすらと虹の姿がーー。晴れたかと思えばすぐに曇り小雨が降るーーそんな不安定な天候がこの日も続いていた。
五稜郭に入場すると、最近建てられたという真新しい函館奉行所の建物がひときわ目を引いていた。この奉行所はもともと函館山の中腹に建てられ、湾を行き来する船を監視する役目を担っていたもので、それを五稜郭内に再現したらしい。(現在、函館奉行所の跡地は更地になっている)


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五稜郭で愛犬の運動をかねた散歩をすませ、今夜彼女を預ける予定のペットホテルへと向かう。
せっかくの函館の夜。ぞんぶんに海の幸を楽しむため、悪いが愛犬とは宿を別にすることにしたのだ。
彼女をペットホテルに預け、宿泊するホテルにチェックイン。フロントでお薦めのすし屋を訊ねてみると、すぐにカウンター下から周囲の食事処が網羅されたリストを取り出し、2軒ほど丸をつけて場所も詳しく説明してくれた。
あらかじめお目当ての店を調べていたわけでもなかったので、その店のうちの1軒に行ってみることにする。

旬の海の幸に舌鼓をうち、酒の酔いもまわったところで、すし屋の主に函館の見どころについて訊ねた。
すると、「そりゃあ、函館山ですねぇ。函館の夜景は見事ですよ!」との返事。
そういえば、函館の夜景を見る計画をたてていなかった!
明日は夜景を見る時間はないため、急きょ店を出て函館山に登ることに。すると店の主が気をきかせ、店の馴染みのタクシーを呼んでくれるという。おかげで函館の夜景を見た後に、タクシーの運転手がライトアップされた函館の名所をながしながら観光案内までしてくれた。ホテルに着いた時、料金を聞いて良心的な値段にちょっとびっくり。
これもすし屋の主が、運転手に「安くしといてよ!」と口添えしてくれたおかげだろう。
残念ながら、食事をとるだけのつもりで出かけたため、函館の夜景も街の観光名所も写真に収めることはできず・・・。写真は、かつて青函連絡船として活躍していた摩周丸。せめてもの記念にと、ホテルの部屋から撮影したものだ。
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*写真はクリックすると大きくなります。
 最初に真子の目の異変に気がついたのは、会社から帰宅し寝室で着替えをしていたパパだった。
「ねえ、真子ちゃん・・・ちょっと目が変だよね?」
 着替えをすますとすぐ、パパは台所で夕食の支度をしているママのところへ行き、心配そうな声でそう話しかた。
「え!真子ちゃんの目がどうかした?さっきまでは何ともなかったけどーー」
 振り向いたママはパパの真剣な顔に不安を感じ、急いで階段を駆け上がり寝室のドアを開けた。
「真子ちゃん!」
 大きな声で名を呼びながら入ってゆくと、真子はお気に入りのソファの上にお座りをして、いつもどおり大きくママに尻尾を振った。けれどその目は両方とも下瞼が腫れ上がり、瞳孔がすっかり上を向いてしまっている。
「どうしたの真子ちゃん、その目!?」
 ママは動転して、声を上ずらせた。
 真子は困ったように俯き、力なく尻尾を垂らした。
「なんか・・・急に変になったの。でも真子何にもしてないよ」
 真子はママに咎められているような気持ちになり、声を落として言った。
「すぐ病院に行きましょう!目のことだから・・・万が一のことがあったら大変よ!」
 ママはそう言って真子の頬を優しく撫でた。真子が心配そうにママを見上げる様子を見て、冷静さを失った自分のせいだと気づいたのだ。後を追ってきたパパも「駅の向こうに24時間の動物病院があるから、そこへ連れて行こう!」とママを急き立てた。

 病院へ着いた時には、もう夜の9時半を回っていた。待合室には真子とママとパパの3人だけ。受付には60代後半くらいの優しげな物腰の男性が一人腰かけ、さきほどママが書き込んだばかりの受付用紙に目を通している。15分程待って、ようやく診察室から一人の女性の看護師が出て来て「こちらへどうぞ」と真子たちを招き入れた。
「急に目がこんな風になってしまって・・・」
 ママはなるべく落ち着いた口調で、真子の目の変化や思い当たる節などについて説明をした。それに対し看護師は、次々と矢継ぎ早にママに質問を浴びせかけた。それは目の事だけではなく、普段の食事や生活の様子に至るまで、実にこと細かな内容だった。

「それでは、真子ちゃんをお預かりします」
 質問が終わると看護師は、ペンを走らせていた問診票を診察台の上に置き、そう言って小脇にはさんでいた白いバスタオルで真子をくるみ、そっと抱き上げた。
 真子は抱かれながら1度だけ、心配そうにママを振り返った。
(大丈夫よ、真子ちゃん!)
 すぐにママは、真子にだけ聞こえる魔法の声でそう言って小さく肯いた。

 その後診察が終わった時には、待合室の時計は10時半を差していた。
 診察室から出て来た真子は首に大きなカラーを巻かれ、さながらエリマキトカゲ状態。すっかり元気を失い、悲しげな表情で首をうなだれていた。
 真子はずっと黙りこくっていたが、帰りの車中でふいに声を張り上げママに訴えた。
「ねえ、ママ!この首に巻いてあるおおきなカラーを外してちょうだい。どうしてこんなの付けられたの?」
 けれどママは、首を横に振った。
「かわいそうだけど、そのカラーは外せないのよ。真子ちゃんが、うっかり目をかいてしまうことがないように付けたものだからね・・・」
「真子、目をかいたりしないよ!だからこれを外して!」
 ママはじっと真子を見つめ、それから静かにこう言った。
「でもね、寝ぼけて目をかいてしまうことだってあるでしょう?もうちょっとだけ辛抱してね、真子ちゃん」
 ママにそう言われ、真子は黙って俯いた。たしかに真子はよく、寝ている間に無意識に耳をかいたりお腹をかいたりする癖があるのだ。
 目をかくと病気が良くならないのだとママから説明を受けていた真子は、カラーをつけるのは憂鬱でも仕方のないことなのだと諦めざるをえなかった。
(あ~ぁ。後どのくらいこのカラーをしてなきゃならないのかなあ?)
 真子は情けない気持ちになりながら、心のなかで溜息をついた。
 さて今日は、「黒猫」や「モルグ街の殺人」などの短編小説で知られる作家、エドガー・アラン・ポーの詩をご紹介しようと思います。作家としてのポーの名は世界に広く知られていますが、詩人としてはあまり馴染みの薄い印象があるように思います。
 けれどもポーの詩は、フランスを始め各国で高い評価を受けているのです。
 彼の書いた詩の中でも、特に母国アメリカで親しまれている作品に、「鐘のさまざま」という詩があります。
 本日は4部構成からなるこの詩のうちの、1部と2部を皆様にご紹介しようと思います。
 物語の一場面のような、躍動感あふれるポーの詩を、どうぞお楽しみください。


 
     鐘のさまざま

        1

橇(そり)についたたくさんの鈴の音をお聞きー
銀の鈴だよ!
その音色は、これからの楽しい遊びを告げている!
それが夜の冷たい空気のなかで
なんとよく響くことよ、りん、りん、りん!
そして夜空には、いっぱいちらばる星々が、
澄みきった喜びに
きらきら光っている!
魔法の呪文に合わせるかのように、
橇から湧き出る鈴の音りん、りん、りんに
調子を合わせるように
チカチカチカチカ光っているー
その鈴の音に、鈴の音に、鈴の音に、
鈴のりん、りん、りんの音に
合わせるように


        2

今度は豊かな結婚の鐘をお聞きー
金の鐘だよ!
その鳴りわたる鐘の合唱は豊かな幸福を告げている!
香しい夜の空気のなかを通って
なんとよく二人の喜びを鳴らしていることか!
その融けた金のような音からは
そのメロディからは
なんと優しい詩がただよってくることか。
それを山鳩が聞いている
月をうっとり眺めながら!
ああ、その鐘の響きからは
なんと沢山の美しい音があふれてくることか!
それは溢れる!
二人を未来に連れてゆく
二人はうっとりと
鳴りひびく音に聞きいるー
ああその鐘の音!
鐘の音、鐘の音、鐘の音
その鐘の音、鐘の音、鐘の音が
それらの鐘の響きと歌が
二人を陶酔に誘っている!

 ユノーは返事をしなかった。
 スミスはどうしてよいかわからず、そこに突っ立ったまま、レグルスとその傍に付き添うユノーとを見つめていた。
 森はうす暗く、不気味なほどしんと静まり返っている。
 仮に何か物音でも聞こえてこようものなら、恐らくスミスはすぐにそちらへの警戒を強め、小さな友人の態度にとりたてて落胆することもなかったであろう。けれども森からは、彼が注意を払わねばならぬような不審な気配はまるで感じ取れなかった。
ーーもののけの森。
 神秘の谷へとつうじるこの森を、人々はそう呼んで忌み恐れていた。実際、人を寄せつけぬ深い渓谷に閉ざされたこの地は、人とは異なる世界に生きるもののけたちのすみかとなっていた。彼らは昼夜を問わずこの森を徘徊してはいたが、決して渓谷を抜け人の住む地へとさまよい出ることはなかった。それは彼らが古(いにしえ)の昔から、ある一つの戒めにより縛られていたからである。
 ただ、この森を束ねる守り主と、それに付き従うもののけだけは例外で、彼らだけは自由にこの森と人の住む外界とを行き来することが許されていた。
ーースミスはかつて、この森の守り主に付き従うもののけであった。その名残で今でも彼は、自由にそれぞれの地を行き来することができるのだった。
 ただそれゆえに、彼は守り主に会うのが気が重くもあった。
 守り主は、自分が最も信頼を置くものを従者に選ぶ。スミスも守り主にたいそう目をかけられ付き従うようになったものであったが、ある時、神秘の谷に住む精霊に外界への案内を乞われ、それがきっかけで精霊に付き従うものとなったのであった。
 森の守り主に受けた恩を仇で返した・・・そんな自負がスミスにはあったのである。
「もののけたちは、レグルスを見たら襲ってくるだろうね・・・」
 ファンタジーガーデンという楽園で育ったレグルスは、もののけたちの目にはさぞやご馳走にうつることだろう。純粋な魂をもつ生き物は、彼らには極上の食糧となる。
「レグルスを目立たぬように運ばなければならないね。いくら僕でも、腹をへらしたもののけの群れをなぎ払える自信はないよ」
 スミスがぼそりとそう言った。
「そのことなら、わしに一つ考えがある」
ユノーは、森の南側に立つひときわ高い杉の大木を指差して言った。
「まずはあの杉の木のところまで、レグルスを運ぶことにしよう」
 スミスはユノーが何か妙案を思いついたらしいことを喜び、眠っているレグルスをふたたび自分の背中に乗せ川沿いの道を南に向かって歩き出した。
 もののけが住む森とはいえ、ここは精霊のすむ聖域とも接し人界とを隔てる役目を担う地でもある。麗らかな陽射しを浴びれば心和み、香しい風が通り抜ければ胸が高鳴りもする。ユノーはかすかに、レグルスを追って彼らと共にこの地を訪れたものの存在を感じ取っていた。
(彼に一役かってもらうことにしよう)
 ユノーは、そう心でつぶやいていた。

今日ご紹介する詩は、19世紀英国ロマン派の屈指の抒情詩人シェリーの代表作「西風に寄せる歌」です。
もうじき12月。日ごとに寒さもつのり、いよいよ冬本番となってきましたね。
この「西風に寄せる歌」は、凍える冬を人生の試練の時期になぞらえつつ、その後到来する春を希望の未来にみたてて情感豊かに詠いあげた作品です。辛い季節もいずれは過ぎ、やがては温かな春を迎える日が必ず来る。詩人のそんな思いが、そこはかとなく感じ取れる作品です。


西風に寄せる歌

    1

おう 烈しい西風 秋のいぶきよ
目にみえぬおまえに追い散らされる枯れた木の葉は
魔法使いからのがれる亡霊なのか

黄いろ 黒 青 疫病やみの深紅の
無数の木の葉ーー おう おまえ
翼のついた種子を 暗い冬の床に追いはらい

おまえのさわやかな妹の春風が
夢みる大地にクラリオンを吹きならし
(そよかぜに草をはむ羊の群れのようにやさしい蕾を駆り立て)

野も丘も いきいきとした色とかおりでみたすまで
墓のなかのしかばねのように
冷たくねむらせるものよ

あらゆるところを動きまわる 荒々しい精よ
破壊者にして守護者よ 聞け おう聞け!

    2

屹立する大空の激動のなかを
おまえの奔流にのって 雨と稲びかりの死者
大地の朽葉のようなちぎれ雲が飛び散り

「大空」と「大洋」のもつれあう枝々から吹き落される
おまえのわき立つ群青のうえに
狂乱のマイナドの頭に逆だちきらめく髪のように

ほの暗い水平の果てから天頂まで
近づくあらしの髪がなびいている
おまえ 昏(く)れゆく年の挽歌よ

暮れなずむこの夕ぐれは
おまえの霧のちからでかためた
巨大な墓所の丸天井なのか

厚い雲から 暗い雨や 稲妻や
あられがほとばしる おう聞け!

    5

わたしを あの森のように おまえの竪琴にしてくれ
わたしの木の葉が たとえ森のように散り落ちようとも!
おまえのどよめく壮大な音楽が

悲しいけれど美しい 荘重な秋のしらべを
森とわたしから得るだろう おまえ 荒々しい精よ
わたしの魂となれ! 烈しいものよ わたしとなれ!

わたしの死んだ思想を 朽葉のごとく
宇宙に追い散らし 新しい生命をもたらせ!
そして このうたの呪力によって

くすぶる炉の灰や火の粉をまき散らすように
わたしの言葉を 人類のあいだにまき散らせ!
わたしの唇をとおして まだめざめぬ大地に

予言のラッパを吹きならせ!おう 風よ
冬来たりなば 春遠からずや

 目指す杉の木は、渓流沿いの岩場から少し斜面を登った丘の中腹、灌木林が途切れ杉の木立に変わり始めるあたりの山肌に立っていた。
 灌木の枝にレグルスをぶつけぬよう、スミスは林を抜けるのを避け、ごつごつした礫岩を足場に登っていくことにした。
 しばらく行くと、山から吹きおろす風にのって爽やかなハーブの香りが鼻をついた。
 目を上げると、すぐ先にある折り重なって地面に突き出した岩の隙間から、小さな薄桃色の花をつけたタイムが這い出して葉を伸ばし、長く垂れ下がっているのが見える。
 高木に遮られることのない丘陵地の岩場は日当たりが良く、季節になれば様々な花が咲き乱れ目を楽しませる。いまも花の香りに誘われ周囲を見渡すと、あちらこちらの岩肌に白や薄桃色の小花を散らしたハーブが群生し、丘を美しく彩っていた。
 だがその景色が眺められるのも、傾斜のなだらかな山裾の丘のところまでーー。
 その先は針状の葉が枝を覆い陽射しを遮る杉の木立ちが並び、下草も生えぬ薄暗い山道が延々と頂きへと続いていた。
「スミス、しばらくここで待っていてくれるかい?。魔よけのハーブが咲いているようだから、少し摘んでいくことにしよう」
 唐突にユノーはそう言って、スミスの頭からぴょんと飛び降りた。
「タイムの香りが気に入らないようなら、少し場所を移動して待っていてくれてもいいよ」
 気遣うようにそう言い残して、ユノーはタイムが咲き乱れる岩場の方へと向かい走り去って行った。
 もののけたちは、タイムの香りをことのほか嫌う。スミスも以前はタイムの香りが苦手であった。しかし精霊に仕えるようになってから、奇妙なことに香りがまったく気にならなくなっていたのだった。
 ユノーは岩肌に枝を伸ばすタイムを鋭い歯で次々と噛みきると、それを器用に1本1本つないで輪にしていった。こうしてタイムの花飾りを3つ拵え終えると、彼はそれを口にくわえ急ぎスミスのもとへと戻ってきた。
「どうやら、もののけたちが僕らの臭いを嗅ぎつけたようだ・・・。先を急ごう。奴らに追いつかれる前に、レグルスを杉の木のところまで運ぶんだ!」
 緊張した声でユノーがそう言うのを聞いて、にわかにスミスも身を強張らせた。
「あの杉の木には清浄な霊気が宿っているけれど、それだけでレグルスの身を守ることはできないよユノー。どうするつもりだい?」
 スミスの問いに、先に立って歩いていくユノーは、振り返ることなく小声でこう答えた。
「レグルスには、僕らには見えない守護天使がついているよ。彼はもののけからレグルスを守るために、きっと杉の木を目覚めさせることだろうからね」
「そうか、あの天使だね!僕もさっきから何となく気配は感じていたよ」
「彼はファンタジーガーデンによく顔を出す天使でね。確かラルフといったかな?レグルスとは顔なじみなのさ。だから今日も、彼のことが心配でここまでついてきたんだろう。天使と杉の木の力を借りれば、もののけたちを追い払うことも、森の守り主に会うことも、そう難しいことじゃない」
「うん。それは実に名案だ!」
 スミスは大きく肯いて、背中のレグルスを振り返った。だがレグルスは意識を失ったままで、一向に目覚める気配はない。
 やがて杉の木までもう目と鼻の先というところまで来たときであった。すぐ後ろの灌木林で葉が激しく擦れあう音がして、スミスとユノーは反射的に振り返った。と、その時、黒い大きな影がさっと二人の前に躍り出て、彼らの行く手を阻んだのであった。

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