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前回の更新からほぼ一年ぶりの更新です(^^;
ブログを書く気持ちの余裕が全くなくなってしまって・・・。

ブログを楽しみとして書いていた頃は良かったのですが、いつの間にか負担に感じるようになり・・・。
そうなると、どうして続けているのだろうと自問自答する日々となってしまいました。

そして、ブログを書くことが自分にとって楽しみといえるようでありたい。
そう願って、更新を中断していました。

ブログの中身について、以前は試行錯誤していましたが、
これからは思いつくまま書いて行くつもりでいます。

いろいろありましたが、書くことはやはり好きなので、小説がメインになるのかな?
日記ブログといえるほど、日々の出来事をまめに綴るのはあまり得意ではないので。

以前に立ち寄って下さった方々も、今はもうこのブログのことは忘れてしまわれたことでしょうね。
また心機一転、一からはじめるつもりで、更新していこうと思います。

たまたまこのブログを訪問された方、よろしければ気楽にコメントをお寄せください。
どうぞ、よろしくお願い致します。

      管理人   エンジェルズアイ

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夜の湖面に揺れる青く輝く月を見つめながら、エレンは美しくも憂いに満ちたその面差しを月光のもとにさらしていた。

なんと不用心なことだろう。うっかり人の子にその姿を見られでもしたら、妖精としての彼女の力は失われてしまうというのに。

今夜のように月が明るい晩は、妖精たちはむやみに人里近い場所になど行ったりはしないもの。

それでもエレンがここまで来たのには訳があった。

あの騎士に、もう一度会いたい!

それはエレンにとって、胸焦がす初めての恋であった。

内気で、決して妖精の森にある秘密の住処から出て来ることのなかった彼女が、ふらふらとただ一人さまよい出たのは、愛しい騎士に再会したい一心からだったのである。

哀れな妖精は、報われぬ恋の虜となり、われ知らず命を危険にさらす行為さえいとわぬようになっていた。

この姿を、偶然通りがった森の守護者ユニコーンが見とがめ、木陰に身を隠していた一人の精霊を呼び寄せ尋ねた。

精霊はエレンが人の子の姿に化け、湖で水浴びに興じていた時、道に迷った一人の若い騎士に出会ったのだと告げた。

騎士は美しいエレンに心を奪われ、言葉を尽くして彼女を森から連れ出そうとしたが、エレンは頑なにそれを拒んだ。

やがて、彼女をくどくことを諦めた騎士は落胆し去って行く。

ところが騎士が森に現れなくなってみてはじめて、エレンは自分も彼に恋していたことに気づき深く後悔する。

それ以来、エレンは愛しい騎士の姿を求めて、毎晩のようにここまで訪ねて来るようになったのだと精霊は語った。

これを聞いたユニコーンは、エレンの痛ましい姿に心うたれ、せめてもう一度だけエレンを恋人に再会させてやれぬものかと思案した。


この様子に、森の守護者に忠実な精霊は、あの騎士が森の領主であるレビアント卿の屋敷に出入りしていたことを話し、自分がレビアント卿の屋敷に出向き、騎士を森に誘い出しましょうと申し出た。

精霊もまた、悲しみにくれる一途な妖精の姿に、かねてから深い同情を寄せていたのである。

「領主のレビアントとは、どのような人物か」

ユニコーンは精霊の身を案じて問うた。

元来、精霊は賢く人の世の事情にも通じているが、善良なるがゆえに人の悪意を見抜けぬという盲点も有していた。

首尾よく人の姿をして屋敷に入り込めても、屋敷の主人が悪意に満ちた人物ならば、正体を見抜いた途端、尊い精霊を騙してとらえてしまうかもしれない。

精霊の流す涙は、人にとっては神の妙薬。これを飲めば、いかなる病も癒すことができるという。

「レビアント卿は人望が高く、私財を投じて氾濫を繰り返す川の干拓事業に取り組むなど、領民たちにおおいに慕われる人物と伝え聞いております」

精霊の言葉にユニコーンは胸をなでおろし、大きくうなずいた。

「ならば行って、妖精が慕う騎士をこの森へと導いてくるがよい。恋しい騎士の姿を見れば、不幸な妖精もきっと心にかすかな希望の光を灯すことであろう」


何という悲劇であろうか。

恋がいかなるものかを知らず、純粋で高潔な心しか持ち合わせぬユニコーン。

愛しい者との再会が、ときとして恋する者の身の上にどれほどの不幸をもたらすかもしれぬということには、とうてい思いの及ばぬことであった。

さて、森の守護者と精霊との間にこのようなやりとりがあったことなどつゆ知らぬエレンは、湖のほとりに座り、物思いにふけっていた。

今夜も騎士は、ここに現れなかった。

その現実が、彼女の心を重く塞ぎこませる。

エレンは傍らの柔らかな草の上に、夜露に濡れた体をゆったりと横たえ、はかなげな声で歌をくちずさみはじめた。

それはかつて、愛しい人が彼女の耳元でささやいた言葉の数々。

忘れ得ぬ思い出の一つ一つを、妖精が歌にかえたものであった。

里への道を急ぐ精霊の耳にも、その歌はかすかに聞こえてきた。

妖精の声が涙に震えている。

聞く者の心を震わす、美しくも悲しい歌声であった。

精霊は目がしらを抑えつつ、先へと道を急いだ。

風が歌声を森から里へと運んで行く。

愛しい人の耳にもこの歌声がとどきますように。

妖精の思いをのせた歌声は、遠く森のはずれに住む一人の少年の耳にもとどいた。

少年は鳥のさえずりのように可憐な歌声にききほれ、歌い手の顔を一目見てみたいと思った。

夜の森には、優れた剣士でも容易には近づかないもの。

まして少年の父は腕のたつ狩人で、幼い頃から夜の森の怖さは嫌というほど聞かされていた。

それでも、少年は歌声の主を知りたかった。

妖精の優しく魅力的な歌声が、少年の心をとらえて離さなかったのである。

少年はこっそりベッドを抜け出した。

しのび足で眠っている両親の部屋の前を通りすぎ、物音をたてぬよう家の戸口を開く。

だが外へと出た途端、冷たい夜風が寝間着姿の体に吹きつけ、少年は思わず身震いした。

一瞬決意が揺らぐが、急がねば歌声は途絶え、訪ねあてることはできなくなる。

そんな焦る思いの方が勝り、少年は急ぎ森の方へと駆け出して行ったのであった。




森の奥へと分け入っていく少年の胸に、父の言葉が去来した。

「夜の森には魔物がいる」

そう少年に語った時の父の顔が思い出される。

その目は恐怖におののき、唇は固くひき結ばれていた。

狩人である父は、森で多くの屍を目にしてきた。

ある者は獣の餌食となり、ある者は闇に食われて死者の国へ入れず、あてどなく地上をさまよう哀れな霊と化す。

いずれの場合も、その屍は実に無残なものだ。

それゆえ縁者に知らせる前に、狩人たちは屍を土に埋め死者を弔うのだという。

「親しい者の目にふれさせることは、死者にとっても縁者にとっても、あまりにむごい仕打ちといえる」

少年は、耳にこびりついた父の声を懸命にふりはらおうとした。

彼方から聞こえて来る妖精の歌声。

心を魅了するその声にじっと耳をすまし、襲い来る恐怖と闘った。

ときおり森の木立の向こうに、何者かがこちらを見ているような気配を感じる。

森の獣か、はたまた森の住人たちか。

人の子が夜の森に入ることを、森の住人たちが好まぬことは少年も知っていた。

その制裁の最たるものが、闇に食われることである。

しかし少年は幼い頃、亡くなった祖母からこうも聞かされていた。

森には森の守護者がおられる。

心にやましいことがなく、善良で森を敬う心があれば、闇に襲われることは決してないのだと。

少年はこの言葉を反芻しながら、林の陰でうごめく影や、獣の泣き声にも動ずることなく歩みを進めた。

やがて湖のすぐ近くまで辿り着いたところで、ふいに歌声がやんだ。

少年は歌い手の姿を見失うまいと、声のしていた方へと慌てて駈け出した。

そのとき、少年の目に一人の美しい妖精の姿が映った。






だが次の瞬間。

少年はいきなり何者かに背後から羽交い締めにされ、地面へとひきずり倒された。

抵抗する暇もなく頭から皮袋をかぶされ、視界が完全に遮られる。

「声をたてるな。命が惜しくば口を開かぬことだ」

少年をとらえたのは、精霊であった。

レビアント卿の屋敷へと向かっていた精霊は、途中で湖の方へと急ぐ少年の姿を見かけ、もしやと思い後をつけてきたのであった。

湖からは妖精の歌声が聞こえていた。もしもその歌声にひかれ湖に向かっているのなら、妖精の姿を目にするに違いない。

そんなことになれば、妖精の力はそがれることになり、傷心の彼女が死の病に伏さぬともかぎらない。

精霊に脅された少年は、声を押し殺しながら、神妙な声で言った。

「どうぞ助けてください。わたしは美しい歌声にひかれ、一目その姿を見たいと森に入っただけなのです」

「人の子よ。そなたは見てはならぬものを見ようとしたのだ。みだりに森の住人に近づいてはならぬという掟を忘れたか」

少年は皮袋をかぶったまま、首を振った。

「掟を破るつもりなど毛頭ありません。ただほんの少しだけ、遠目にでもあの美しい声の主を眺めることができれば、それで満足だったのです」

精霊は、しばし考えた。

この少年は自分の行いを悔やんでいるし、言葉に偽りはないようだ。

もしレビアント卿の屋敷に出入りしている者ならば、案外役に立つかもしれぬ。

精霊はそう思い直すと、少年の頭にかぶせていた皮袋をはずしてやった。

「人の子よ。これから私の言う事を守り、森の守護者の命に従うならば、そなたの罪を許すとしよう」

これを聞いた少年は喜んで答えた。

「もちろんです。私でお役に立てることならば、なんなりとお命じください」


精霊は、その深淵な光を放つ目で少年を見つめた。

よく日焼けした血色の良い顔。

やや小柄だが、敏捷そうな身のこなしといい、辺りへの目配りの鋭いところといい、獣を追う狩人のそれを思わせた。

「そなたは狩人か」

精霊の洞察力にはっとして、少年は畏敬の念で背の高い森の住人を見上げた。

「わたしはまだ、獣を狩ったことはございません。ただわたしの父は狩人で、これまで幾度も父の狩りに同行しております」

精霊は肯き、金色に光るローブの袖から一本の樫の杖を取り出し少年に手渡した。

「これはそなたの身を守る杖となる。常にこれを持っていなさい」

少年は樫の杖をうやうやしく捧げ持ち、精霊に深く頭をたれた。

「もったいないことです。このような貴重な宝をお授けいただくとは」

すると精霊は、少年の肩に手をおき、彼らの言語で何事かをつぶやいた。

「わたしはこれから、この地を治める領主レビアントの屋敷にいくつもりだ。そなたはわたしの従者としてついてくるがよい。わたしは人の姿となり、名を偽って屋敷に入るが、わたしの正体を決して誰にも話してはならぬぞ」

少年はややうわずったような声で応えた。

「もちろんでございます。口が裂けても決してあなたさまの正体を人に話したりはいたしません」

精霊は少年を見据え、念を押して言った。

「よいな。屋敷へ入ったら、必ずわたしの言う通りに振る舞うのだぞ」

精霊は少年を従え、ふたたびレビアント卿の屋敷へと向かって歩き始めた。

そのすぐ後について少年も歩き始めたが、一瞬、名残惜しそうに後ろを振り返り湖を眺めた。

しかし、もはやそこにあの妖精の姿はなかった。


レビアント家は代々武勇に秀でた家系で、毎年冬の訪れ間近い季節になると、腕に覚えのある騎士たちを集めて武術大会を行うのを恒例としていた。

今年も武術大会への参加者が国の内外に募られ、レビアント家にはぞくぞくと多くの騎士たちが訪れ屋敷に逗留していた。

そして大会もいよいよ数日後に迫った今夜、屋敷では逗留している客人たちをもてなすため広い応接間に宴席が設けられ、盛大な晩さん会が開かれていた。

まず宴の余興に、街から呼び寄せられた女たちの妖艶な踊りが披露され、騎士たちの目を楽しませた。

それが終わると、大食漢ぞろいの騎士たちの腹をみたすための豪華な食事と酒がふるまわれた。

騎士たちはみな上機嫌で食事に舌鼓をうち、明日の好敵手相手に酒を酌み交わし、互いの武勇伝に花を咲かせはじめた。

「そういえば、今年はレビアント家からは武術大会に参加される方はおられぬそうだな。昨年はレビアント卿の弟君が参加され、惜しくも優勝は逃されたが、決勝まで勝ち抜かれたその腕前はなかなかのものであったが」

騎士たちの中でも、とりわけでっぷりとした赤ら顔の騎士が言った。

「貴殿も昨年、武術大会に参加されたのか? 」

尋ねたのは、すぐ隣に座っていた年若い騎士で、武術大会への参加は今回が初めての男だった。

「ああ、だが優勝者と一回戦で戦うはめになってな。残念な結果に終わってしまったのだよ。この武術大会は前年の優勝者は参加できぬ決まりだから、今年こそはと参戦してきたのよ」

「そうであったか。それは楽しみなことだな」

そう気のない相槌をうちながら、年若い騎士は赤ら顔の騎士に向かって言った。

「それにしても、主催者のレビアント家から一人も参加されぬというのは、珍しいことだな」

「そういえば、これまでは親戚筋から誰かしらが参戦しておられたが。何か不都合でもあったのであろうか」

赤ら顔の騎士も、はたと食事の手をとめ、考え込んだようにつぶやいた。

「昨年惜しくも優勝を逃されたという弟君など、今年こそはと息巻いておられそうなものだが」

年若い騎士が、腕組みをしながら言った。

「弟君はご病気という噂もあるようだ」

赤ら顔の騎士が、辺りを気にしながらやや声を落として言った。

すると、年若い騎士は納得した様子で言った。

「それは残念なことだな。だが、おかげでこちらは強敵が一人減ったともいえる」

それを聞いて、赤ら顔の騎士が豪快な笑い声をあげた。



さらに座っていた椅子を踏み台がわりにして立ち、ぐるりと周囲を見回すと、酒に酔いしれ笑い騒ぐ騎士たちにも聞こえるような大声をはりあげて言った。

「おい、諸君! こちらの若き騎士殿は、今年の武術大会での優勝を狙う有力候補の一人だ。みな、顔を良く覚えておくがいいぞ」

赤ら顔の騎士にそう言われて若い騎士は慌てたが、なにぶん酒宴でのこと。

明日にはみな忘れてしまうだろうと、深く気に留めることはせず、席に運ばれてきた新しい酒瓶に手をのばし、勢いよくあおった。

それを見て赤ら顔の騎士が愉快そうに笑いながら言った。

「おお、これはなかなか良い飲みっぷりだ」

そう言って、若い騎士にさらに酒をすすめる。

「ところで、貴殿はどちらの出身であったかな? 」

赤ら顔の騎士は、みるみる紅潮していく若い騎士の顔を上目遣いにのぞき見ながら、そう尋ねた。

「わたしは、北端の街エルメックから参りました」

「ほお、これはまた、ずいぶんと遠路はるばる来られたものだな」

エルメックと聞いて、赤ら顔の騎士は少々驚きの表情をみせた。

それもそのはず。

北端の街エルメックは、人が入ることを禁じられた精霊たちの住む聖域と境を接する町で、不思議な剣術を用いて一瞬で敵を倒す達人がいるという噂でも有名な街であった。

いま目の前にいるこの若者も、噂の剣術使いであろうか。

赤ら顔の騎士の脳裏にそんな思いがよぎるのを見透すように、若い騎士が言った。

「エルメックの剣術は、他の騎士の方々とは少々作法が異なっております」

「それはそれは。ぜひ一度お手合わせ願いたいものですな」

そう言いながらも、赤ら顔の騎士の顔には明らかに焦りの色が浮かんでいた。

するとそこへ、レビアント家の使用人らしい一人の老人が近寄って来て二人に声をかけた。

「恐れ入ります。お二人とお話をしたいと申されている客人がいらっしゃるのですが」

二人が顔を見合わせ後ろを振り返ると、そこには眼光鋭い初老の騎士が、従者らしい少年を伴い立っていた。





 
若い騎士は席をたち、使用人に案内されるまま、老騎士たちの方へと進んでいった。

赤ら顔の騎士の方は、いぶかしむように老騎士と少年を眺めたまま、事のなりゆきを見守る構えである。

「わたしたちに用とのことですが、誰かと人違いをしてはおられませんか。わたしは、貴殿とお会いするのは今日が初めてです」

若い騎士はそう言って赤ら顔の騎士の方を振り向き、問いかけるような視線を送った。

それを受けて、ようやく赤ら顔の騎士も片手をあげて席を立ち、憮然とした表情で言った。

「失礼だが、ここ数年の武術大会ではお見かけしておりませんな。わたしも貴殿とは、これが初対面と存じる」

二人が警戒するような眼差しを向けるのを見て、老騎士の傍らの少年の表情が強張った。

少年は若い騎士を盗み見しては、何事かを告げようとでもするかのようにかすかに唇を動かした。

それに気づいた若い騎士が少年を凝視すると、今度は怯えたように足を震わせ、老騎士の背後にすっと身を隠してしまった。

そんな少年の姿に、老騎士は険しい表情で何事かを彼の耳元でささやいた。

すると途端に少年の顔つきが変わり、動揺した様子がかき消えた。

このやりとりに赤ら顔の騎士が興味をひかれたようで、にわかに表情を和らげ、老騎士へと語りかけた。

「わたしたちは御存知のとおり、武術大会に参加するためにこちらのお屋敷に逗留させていただいている者です。ですから、武術大会が終わればこちらを去る身。それまでの数日間で、何かお役に立てることがあるということでしたら、お話をうかがうのもやぶさかではありませんが」

これを聞いて、老騎士はしわがれた声でこう言った。

「お二方に、さるお方の動静について知っていることがあれば、是非教えていただきたいと思っているのです」

若い騎士と赤ら顔の騎士は、老騎士の差し出した皮袋から金貨がこすれあう音がするのを聞いて目を輝かせた。

「さるお方とはどなたですか? 」
 
黄金に目がくらんだ騎士たちは、声を合わせて尋ねた。

「レビアント卿の弟君を見舞うため、こちらの屋敷に逗留しておられる騎士がおられるはず。その方について知っておられることを話していただきたい。そして、できればその方にお会いできるよう取りつぎをお願いしたいのです」

老騎士の言葉に、赤ら顔の騎士がこたえて言った。

「たしかに、レビアント卿の弟君のもとに、古いご友人が来ておられるのはわたしも知っている。しかし、最近はあまり姿を見ぬようだ。風の噂では女にふられ、ひどく気落ちしていたという話だが」

この返事に、老騎士の目がきらりと光った。


若い騎士は、皮袋が老騎士から少年に手渡されるのを確認しながら言った。

「弟君のご友人がこの屋敷内にいらしたとして、わたしたちに会う手筈をつけて欲しいとおっしゃるのはどのような理由からですか? 武術大会に参加されるのなら、滞在客同士の交流を推奨されるレビアント卿の意向にもそうはず。直接お会いになることも可能でしょう」

たしかに、武術大会に参加する目的で逗留する者たちの交流ならば、直接会うことも可能なはずであった。

まして、この屋敷に入ることを許されている時点で、特に障害があろうとも思えない。

若い騎士に問われ、老騎士は肯き答えた。

「わたしどもは武術大会に参加するために当屋敷に参ったのではありません。レビアント卿にお許しはいただきましたが、ここにいられるのは今夜のみなのです。現在、弟君のご友人がどこにおられるのかが分からぬ以上、かわりに探していただく方をお願いするしかございません。あなたがたお二人は、ここにおられる騎士たちの中でもとりわけ社交的でいらっしゃる。人探しをお願いするには適任とお見受けしました」

老騎士の返事に、赤ら顔の騎士がまんざらでもなさそうな顔で言った。

「さすが、なかなかのご慧眼。この屋敷にいる者たちの素性についてなら、まずはわたしに尋ねられよ。おおよそのことなら聞き知っております。わたしの見る所、貴殿はエルメックかその近くの出身でござろう。いかがかな?」

老騎士が口元に笑みを浮かべた。

「エルメックからは少し離れておりますが、北端に近い土地には違いありません。しかし、どうしてお分かりになられたのかな?」

赤ら顔の騎士が得意げに言った。

「お連れになっているその少年です。月光のごとき銀色の髪。フクロウの目のように大きく凛とした眼差し。月光の民と称される北端の民の容姿そのものだ。そう言えば貴殿もエルメック出身であったな。同郷の者の匂いがするのではないか」

赤ら顔の騎士に言われ、若い騎士は内心、なるほどと得心した。

さきほど、少年が自分を見て何事かを告げようとしているように思えたのは、相手にどこか親しみを感じていたからなのかもしれない。

「それで、礼はたんまりいただけるのかな?」

赤ら顔の騎士が抜け目ない顔で言った。

老騎士はにやりとした顔で答えた。

「もちろん、貴殿にご満足いただけるだけの礼をさせていただきましょう」

武術大会に優勝すれば、剣術修行という名目でさすらう貧困騎士たちにとって、とびつきたくなるほどの賞金が与えられた。

しかし、武術を奨励するレビアント卿は、勝利を逃した者たち、つまり参加者の全てに幾ばくかの金貨を与えていたのである。

実のところ、それが目的でこの武術大会に参加する者も少なくはなかった。



老騎士の姿に化けた精霊は、二人の騎士が腕試し目的で武術大会に参加しているとは思っていなかった。

それゆえ彼らに礼金を与えれば、こちらの思い通りに動かせるであろうと踏んだのである。

とくにエルメック出身という若い騎士は、他の騎士にくらべてずいぶん貧相な身なりをしていた。

さぞ金を工面するのに、難渋しているに違いない。

そもそもエルメックは貧しい辺境の地であった。

土地はやせていて作物はほとんど実らない。

しかも周囲を高い山脈に囲まれているため、街道筋にあるレビアント領主国とは異なり、人の往来が極端に少なかった。

そんな人々の暮らしを支えているのは主に酪農で、わずかに摂れる作物と羊や牛の乳からこしらえたチーズなどの乳製品を周辺の街に売り、生業としていた。

いっぽうレビアント領主国は、東と南が海に面した交易の盛んな豊かな国であった。

エルメックは西の大国カルドナ国の支配にあったが、聖域沿いに東西に延びる北端の町のため、レビアント領主国とも境を接していた。

信仰心の篤いレビアントの民は、貧しいとはいえ聖域近くに生きるエルメックの人を深く崇敬してもいた。

エルメックに近い北の民の多くが、彼らの持つ不思議な力を目の当たりにし、それを伝え広げていたためである。

精霊に従いレビアント家を訪ねた少年もまた、エルメックの民を崇敬する者の一人であった。

少年の暮らす森からエルメックまでは険しい山脈の壁に隔てられていたが、山越えをいとわず歩きとおせば二日ほどの距離であった。
 
そのため、国が二国に分断される以前にエルメックから移り住んでいる者も多く、少年の祖母も生まれはエルメックであったと聞かされていた。

はじめ若い騎士を見た時、少年は彼の面差しに亡き祖母の面影を見て、思わず話しかけたい衝動に駆られた。

しかしそれと同時にエルメックの民が持つ不思議な力に恐れを抱き、目が合った途端、身を隠さずにはいられなかった。

しかしこの行動は聖霊の怒りをかった。

彼は森で精霊と約束をかわしたことを思い出す。

精霊との約束は神との約束。

少年はローブの下に隠し持つ樫の杖を握りしめながら、じっと精霊と騎士たちの会話に耳を傾けた。


赤ら顔の騎士は人に聞かれるのをはばかるように柱の陰に行き、精霊と小声で相談を始めた。

しばらくすると精霊は少年のもとに戻って来たが、いささか剣呑な表情を浮かべており、問うように見上げる少年の耳元でこう囁いた。

「若い方の騎士が、人探しの理由にこだわっているらしい。彼に承諾させるには、一芝居うつ必要がありそうだ。そなたを妖精の弟ということにしよう。自分の姉が恋人である騎士に会いたがっているのだと彼を説得し、赤ら顔の騎士の手助けをしてくれるよう頼みこむのだ」

 しかし言われた瞬間、少年は顔をしかめた。

精霊が彼に命じたことを、受け入れ難かったからだ。

少年は思った。

精霊が妖精の恋い慕う騎士を探すために、自分をここまで連れて来たことは承知している。

それで自分は屋敷に着いたとき、以前、父とこの屋敷に来たとき知り合いになった門番に頼みこみ、怪しまれることなく精霊が屋敷内に入れるようにつとめたのだ。

それだけで、自分はもう十分、精霊との約束を果たしたことにはならないだろうか。

妖精に思いをめぐらし、あの美しい歌声を思い出すと、少年の胸は無性にせつなくなった。

妖精と、彼女が恋い慕う騎士を再会させるための手助けをすることなど、彼には到底できそうになかった。

少年はいつしか、妖精に恋心を抱きはじめていたのである。

それが、少年にとっての不運の始まりとなることを、無論、彼は知るよしもない。

「妖精がわたしの姉と偽っても、勘の鋭いあの若い騎士にはすぐに見抜かれてしまうでしょう。それよりは、彼女の誇りを激しく傷つけた相手として決闘を申し込みたい、と言った方が納得するような気がします」

少年がそう言うのを聞いて、精霊は驚き目を見張った。

「決闘を申し込むためだと! 剣を持ったことすらないそなたが、決闘などできはすまいに」

しかし少年は、さらりとした顔でこう言ってのけた。

「実際に決闘するわけではありません。妖精の会いたがっている騎士を探し出すための口実です」




決闘を申し込まれて、受けぬは騎士の恥。

探す理由が決闘であるならば、若い騎士も助力を惜しまぬだろうというのが少年の言い分だった。

「ご安心ください。剣術はたしなみませんが、決闘の作法ぐらいは知っています。探し当てた後の決闘の場所は、あの湖ということに致しましょう。そうすれば、あの騎士をすんなりと森におびきだすことができます」

少年に言われ、精霊はいささか不本意ではあったものの、最終的には彼の考えに同意した。

無論、決闘が作り話であったからであるが、精霊はなぜか不吉な予兆を感じていた。

剣を少年に持たせて本当に大丈夫だろうか。

そんな不安が精霊の胸によぎったのである。

若い騎士は、少年からレビアント卿の弟君を見舞いに来た騎士を探す理由が決闘を申し込むためと聞いて、たちまち顔色を変えた。

事情を聞いた彼は、それまでの気乗りしなさそうだった態度をあらため、真剣な眼差しで言った。

「その騎士が森で出会った娘と恋仲になったという噂は、わたしも耳にしています。しかし、その娘さんが恥辱を受けたと訴えておられるというのであれば、決闘を申し込まれても致し方ないでしょうね。わたしも、その騎士を探すお手伝いを致しましょう」

少年は、女性にひどい仕打ちをしたと聞いて憤慨する若い騎士を見て、内心つぶやいた。

騎士は女性に対して紳士的に振る舞うものだそうだが、決闘という手段に訴えることを止める気はさらさらないようだ。

命をかけて女性を守るというのは、男の勲章というわけか。

少年は湖のほとりで垣間見た妖精の姿を思い出し、自分が彼女の恋人であったなら、本当にあの騎士を亡き者にしたいと望むだろうなと思った。

しかし決闘はたんなるお芝居で、実際は妖精の想い人を湖によびだすための口実にすぎない。

そのことが、少年を失望させた。

もしもあの騎士がこの世の者でなくなったら、妖精はさぞ悲しみにくれることだろう。

けれど時とともにいずれ傷は癒え、彼女はまた新たな恋に心ときめかせるかもしれない。

そう考えると、心が軽くなる気がした。

この時ふと傍らの少年に目を向けた精霊は、彼がはっとするほど明るい表情を浮かべているのを見て首を傾げた。

人の心に住む魔性を知らぬ精霊は、漠然と広がっていく胸騒ぎに一人困惑するのだった。







   去りゆく君へ


その扉の向こうに、愛しい君がいると感じることができるのに

僕はその扉を開くことはできない

でも扉の向こうの君はたしかに僕を見つめていて

その麗しい瞳の輝きがすべてを伝えているのさ

この世のすべてがうつろい、輝きを失っても

君への想いは真実で

永遠に愛は翳りはしない

いつか自由の翼が与えられたら

君のもとへ行こう

この扉を開いて

そのときまで愛は変わらぬと誓うよ

去りゆく君へ

天使の歌を歌おう

高らかに

天へと羽ばたく

君へ送ろう

神々しい光にあふれた世界で

安らかな眠りにつく君よ

天使の腕に抱かれし君の

美しき寝顔

永遠の愛に包まれし

穏やかな面差し

愛しき君に捧げよう

一輪の花にそえてこの詩を



部屋の中央には、重厚な石造りの暖炉がすえられ、炎が煌々と燃え盛っている。。

その暖炉の前に置かれた安楽椅子に深く腰かけ、レビアント卿は老眼鏡ごしに書物を読み耽っていた。

白い顎鬚をたくわえた矍鑠たる英雄レビアント卿の傍らには、いかつい風貌の一頭の大きな犬がぴたりと足下に寄り添うように寝そべっている。

「兄上。少しよろしいですか」

突然声がしたことに反応し、卿の傍らにいた犬が咄嗟に頭を持ち上げ、一声大きく吠えた。

しかし部屋に入って来たのが主の弟ロディウスと分かると、犬は警戒をとき再び床に寝そべり目を閉じた。

「どうした」

レビアント卿は目を上げ、やや病み上がりな青白い顔をした弟を見つめた。

「困った事が起きました」

年の離れた弟ロディウスの声の震えに気づき、卿は眉をひそめた。

「うろたえるではない。騎士たちの間でもめ事でもあったのか?」

兄にたしなめられ、頬を紅潮させたロディウスは首を横にふった。

「武術大会に集まった騎士たちではなく、わたしの友人が決闘を申し込まれたのです」

レビアント卿はやや眉をつり上げ、興味深げに尋ねた。

「決闘をとな。それで申し込んだ相手はどんな男だ」

ロディウスが困惑の表情を浮かべる。

「それが、まだ少年なのです。友人が森で知り合った娘を辱めたという理由で決闘を申し込んできたのです」

レビアント卿は白髭を手でなぞりながら何事か考え込んでいたが、やがて冷淡な口調で言った。

「少年の申し立ては受け入れてやらねばなるまい。それで、そなたの友人はどこにいるのだ」

ロディウスは肩を落とし、不安げな声で言った。

「今は別邸の方へ行っております」

「ならば使いを送り、呼び戻すがよい」

兄の言葉に、ロディウスが懇願するように声を上げた。

「しかし、少年の言い分はどうも友人の話とは食い違っているようなのです。友人は娘にすげなくされたと、ひどく気落ちしていました。彼は娘を深く愛してしまったが故に苦しんでいるように見受けられたのです。それなのに娘の恨みをかい、決闘を申し込まれるなどと、どうにもわたしには腑に落ちぬのです」

 だがレビアント卿は、厳格な態度を崩そうとはしなかった。

「いずれにせよ、決闘を申し込まれたのなら受けるのが騎士の誇り。そなたの友は臆病者などではあるまい?」

「無論です。ただ、何か陰謀めいた匂いがするのが、気に入らぬと申し上げたかったのです」

苛立つ弟を遮るように、レビアント卿は首を振った。

「そのことなら心配は要らぬ。決闘の立会人に、腕がたち信頼のおける然るべき人物を立てればよいのだ」

「兄上には心当たりがおありなのですか」

「適任とおぼしき者が、おりよく武術大会の審判として当屋敷に逗留しておる」

「ということは・・・」

ロディウスの声がうわずった。

「そうじゃ。昨年そなたが惜敗した男サムウェルが適任であろう」

レビアント卿の言葉に、ロディウスは苦々しい笑みをもらした。

「サムウェルはエルメックの出身でしたね。そういえば、あの少年も北の民を思わせる風貌をしていた」

「ところで、ロディウス。そなたの友は剣の腕はたつのか? 決闘は正々堂々と行う。万が一、命を落とすことがあっても、それは致し方のない事と、諦めねばならぬぞ」

ロディウスは辛い表情を浮かべながらも肯いた。

「彼の剣の腕はかなりのものです。ただ・・・、彼が少年を殺めることができるかどうか」

「友は人を殺めたことがないのか?」

「はい・・・」

若い弟の苦悩の表情を見て、レビアント卿もはじめて顔を曇らせた。



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