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さて、森の守護者と精霊との間にこのようなやりとりがあったことなどつゆ知らぬエレンは、湖のほとりに座り、物思いにふけっていた。

今夜も騎士は、ここに現れなかった。

その現実が、彼女の心を重く塞ぎこませる。

エレンは傍らの柔らかな草の上に、夜露に濡れた体をゆったりと横たえ、はかなげな声で歌をくちずさみはじめた。

それはかつて、愛しい人が彼女の耳元でささやいた言葉の数々。

忘れ得ぬ思い出の一つ一つを、妖精が歌にかえたものであった。

里への道を急ぐ精霊の耳にも、その歌はかすかに聞こえてきた。

妖精の声が涙に震えている。

聞く者の心を震わす、美しくも悲しい歌声であった。

精霊は目がしらを抑えつつ、先へと道を急いだ。

風が歌声を森から里へと運んで行く。

愛しい人の耳にもこの歌声がとどきますように。

妖精の思いをのせた歌声は、遠く森のはずれに住む一人の少年の耳にもとどいた。

少年は鳥のさえずりのように可憐な歌声にききほれ、歌い手の顔を一目見てみたいと思った。

夜の森には、優れた剣士でも容易には近づかないもの。

まして少年の父は腕のたつ狩人で、幼い頃から夜の森の怖さは嫌というほど聞かされていた。

それでも、少年は歌声の主を知りたかった。

妖精の優しく魅力的な歌声が、少年の心をとらえて離さなかったのである。

少年はこっそりベッドを抜け出した。

しのび足で眠っている両親の部屋の前を通りすぎ、物音をたてぬよう家の戸口を開く。

だが外へと出た途端、冷たい夜風が寝間着姿の体に吹きつけ、少年は思わず身震いした。

一瞬決意が揺らぐが、急がねば歌声は途絶え、訪ねあてることはできなくなる。

そんな焦る思いの方が勝り、少年は急ぎ森の方へと駆け出して行ったのであった。




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