ファンタジーガーデン

自作のファンタジー小説と日々の日記のブログ

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童話 メリルさんの悩み 5

 02, 2012 23:10
 イジーはつがいのからすに教わった。
 谷を飛ぶときは風にうまく乗ること。特に上昇気流にうまく乗れれば、楽に遠くまで飛ぶことができるのだということを。彼はその言葉に従い、これまで飛んだことのないほどの速さで遠くへと移動することに成功した!親のいないイジーにとって、飛び方を教わるというのは初めての経験である。
 だからなのだろうか?
 つがいのからすに「そうそう!それでいいよ」と声をかけられるたび、彼はなんとも面映ゆい気分がした。
 やがて山の峰がきれ谷を抜ける頃になると、三羽はそれまで身をゆだねていた上昇気流からいっせいに離れ、力強くはばたき始めた。そして一定の距離は置きつつも、常に縦一列の体制を保ち、徐々に森の方へと低空飛行に移っていった。先頭にはつがいのオス。続いてメス。そして最後尾がイジーである。
 ここから先は、見渡す限り杉や樫の木々が生い茂る緑深い森が延々と続く。三羽はときおり風にあおられ、危なく木々の梢に翼をぶつけそうになりながらも、懸命に互いに声をかけあい飛び続けた。
 やがて森が途切れると、一転そこには豊かな牧草地が出現した。広大な牧草地のあちこちに、のんびりと草をはむ牛馬の姿が見受けられる。イジーは、メリルさんにファンタジーガーデンに連れて来られてから、ガーデンとその周囲の森以外へは飛んで行ったことがなかった。それだけに、眼下に広がる見慣れぬ景色は、若い彼の心を高揚させずにはおかなかった。
「ここまで来れば、町はもう目と鼻の先よ!」
 メスのからすが、待ち切れぬようにそう叫んだ。
 それは、牧草地では点在していた人家がいつの間にか集落となり、大地を覆っていた緑の草々は、隙間なく敷き詰らめたれんがの舗道へと変わり始めた頃であった。
 イジーは生まれて初めて見る町の光景を、ひとり想像し胸をはずませた。彼は以前メリルさんの部屋で、町の写真を一度だけ見たことがある。それは彼女あてに届いた絵葉書の写真で、その中に目指す通りも写っていたのであった。
「いやいや、そう気のはやるようなことをいうものじゃないよ!イジー君の言っていた通りは町の中央に位置しているからね。まだしばらくは飛び続けなければいけないよ」
 先導して飛んでいたオスのからすは後ろを振り返り、たしなめるように言った。
 彼の言ったとおり、町の中心地まではまだかなりの距離があった。普段長距離を飛行する経験など皆無のイジーは、全身に激しい痛みを感じ始めていた。すぐ前を飛んでいたメスのからすが彼の異変に気付いたときは、すでにイジーは体制を崩し地面へと落下し始めていた。メスの悲鳴に驚いた先導役のオスは、慌ててイジーの真下へと滑空すると、力まかせにイジーの体を背中で突き上げた。
「しっかりしろ!」
 オスのからすの叱責に、イジーは痛みにうめき声をあげながらも力を振り絞り、翼をはためかせた。だがなんとか落下は防げたものの、よろめくように地面へ舞い降りた途端、彼はそのまま動かなくなった。
「イジー、頑張って!ここはまだ、人の往来が多い場所だから危険よ。もう少しだけ頑張って!」
 メスのからすは何度も悲痛な声を上げ励ましたが、イジーは翼を大きく地面に広げたまま目を閉じぴくりともしない。すでに彼は意識を失っていたー。
 その時である。通りの向こうから、舗道を軋ませこちらに近づく馬車の音が響いてきた。つがいのからすは悲しげな声でかあ!と一声大きく鳴くと、イジーの脇に建っている屋敷の屋根へと急いで舞い上がった。


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