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童話 メリルさんの悩み 6

 06, 2012 12:55
 もはや馬車は目前にまで近づいていた。つがいのカラスは、なんとかイジーが意識を取り戻しはすまいかと、声も張り裂けんばかりに彼の名前を呼び続ける。彼らは長旅の経験のないイジーに、無理な飛行を強いた自分たちを責めていた。そして、なすすべのない自分たちの無力さにうちのめされながらも、代わるがわる天を仰いでは神に祈った。
そんなつがいのからすたちの思いなど知るよしもなく、馬車の御者は「今日はやけにカラスが騒ぎやがるなあ!」と舌打ちし、眉をひそめたきりであった。
 ついに馬車は舗道の曲がり角にさしかかり、そのすぐ脇にぐったりと横たわっているイジーの体を今にも踏みつぶそうとした。
その時である。
「危ない!」
 御者が思わず悲鳴を上げた。馬車を引いていた二頭の馬たちは、いきなり御者に手綱を強くひかれ、驚き立ち上がった。その拍子に黒塗りの立派な馬車は大きく揺れ動いた。
「おい、どうしたんだ?!」
 馬車の窓から首を出し、一人の紳士が御者に声をかけた。
「へい、すみません旦那様。子供が急に飛び出して来たもんですからー」
 御者は申し訳なさそうな声でそう答えた。
「子供だって?」
 紳士は驚いたようにそう言うと、馬車の扉を開けて舗道へと降り立った。
 見ると馬車のすぐ前の舗道の隅に、一人の少年が立ちこちらを見つめていた。少年は腕に一羽のからすを抱きかかえている。
 御者は勢い振りかえり、少年に向かって怒鳴りつけようとしたが、すんでに、少年の着ている制服がこの町きっての名門の制服であることに気づき口ごもった。
 馬車の主は、ゆっくりと少年に歩み寄りくだけた調子で言った。
「馬車の前に飛び出すとは、すいぶん無茶がすぎはしないかね?」
 しかし少年はたじろぐ様子も見せず、真っ直ぐに紳士を見返して言った。
「あのまま放っておいたら、このからすは踏みつぶされてしまうところでした」
 きっぱりとした口調の少年に、紳士は感心したようにうなづいた。
「確かにそうだね。どうやら、きみがそのからすを助け出したようだ」
 御者は小声で、「そんなうす汚いからすなんか!ー」とつぶやいたが、少年の睨みつけるような目に気づきおし黙った。
「からすにも、命はあるんです!」
 少年は毅然とした態度でそう言った。
 紳士は少年をじっと見つめた。
「きみはエディントン校の生徒だね。私はチャールズ・ブラント。きみの名前も教えてもらえるかな?」
 すると少年は、輝くような笑顔を浮かべ答えた。
「僕はデービッド゙。デービッド・マーシャルです!」
 御者は思わず、ひえっ?!とうめくように叫んだ。彼が驚いたのも無理はない。間一髪、彼が馬車で引きかけたのは、なんとこの町の領主マーシャル家の少年だったのである。


 デービッド・マーシャルは領主ジョージ・マーシャルの孫にあたる。
 彼の父であり、次期領主ともなるロバート・マーシャルは、一人息子のデービッドに「どんな相手にも、分け隔てなく接しなさい」と、常日頃から諭していた。そのこととデービッドの母親譲りの優しさとがあいまって、彼は人も動物もこよなく愛する優しい少年へと成長していた。
 それゆえデービッドは、道端に倒れているカラスの姿を見つけた瞬間、ほとんど反射的に馬車の前に飛び出していたのである。
「でも、急に馬車の前に飛び出したのは僕も悪かったと思っています。ーごめんなさい」
 マーシャルの名を聞き、すっかりうちひしがれ下を向いていた御者は、デービッドのこの言葉を聞くと、ようやく顔を上げ安堵の色を浮かべた。
「そのカラスは、どうするつもりだね?」
 チャールズは、ぐったりとしたまま動かずにいるからすを見やりたずねた。
「動物のことに詳しい友人を知っています。これから、彼のところへ連れて行こうと思っています!」
 それを聞くと、紳士は安心したように顔をほころばせ、デービッドに別れを告げた。そして再び馬車に乗ると、御者に命じて馬車を町の中心地へと向かい走らせて行った。
 一方デービッドは、馬車が走り去ると小走りに舗道を歩き出した。
 この一部始終を見届けていたつがいのカラスは、イジーの身が案じられ、このまま彼を置いて去る気にはどうしてもなれなかった。そこで二羽は相談の上、少年について行くことに決めた。
 さて、少年は足早に舗道のわき道に入ると、人がようやくすれ違える程度の狭い路地をどんどん奥へと進んでいった。やがて袋小路まで来たところで、少年は右手の古い赤レンガの建物に歩み寄った。そこには階下へと続く階段があり、彼はをいっきにそこを駆け降りて突き当りの家の戸口を叩いた。
 ほどなくして戸口が開き、中から一人の老人が彼を出迎え招き入れた。
「クリス。このからす、さっきから少しも動かないんだ。どうにかして助けてあげて!」
 家の中に入るやいなや、心配そうに腕の中のイジーを見下ろしながら、少年は老人にすり寄り懇願した。
「クリスなら、この子の事が分かるでしょう?」
 老人は自分に信頼の眼差しを向ける少年を優しく見つめ返しながら、彼をなだめた。
「ー今はまだ意識を失っております、デービッド様。ですが見たところ、どこにも傷のようなものはありませんし、少し体を温めてやり様子をみることに致しましょう」
 老人がそう言い、デービッドに食卓の椅子を差し出すと、彼はイジーをテーブルの上にそっと下ろしてから椅子に腰かけ、ありがとうと礼を言った。
ーそれから、小一時間が経とうとした頃、ようやくイジーは意識を取り戻し弱々しく片方の翼を震わせた。
「クリス、からすが目覚めたよ!」
 少年は小躍りして叫んだ。その声を聞いて、老人は奥の部屋から何か小さな箱を抱えて戻ってきた。
「さあ。私に何があったか教えてくれるかい、カラスくん?」
 老人はイジーに向かい、そう優しく声をかけた。
 これを聞いて、イジーは驚いて叫んだ。
「おじいさん、僕とお話ができるの?!」
 イジーはこれまで、メリルさん以外に動物と話のできる人に出会ったことはなかった。驚いた様子のイジーに、老人は愉快そうに笑みを返して言った。
「そうだよ。私は動物たちともお話ができるんだ」




 
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