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執筆の合間に 第1話

 06, 2013 22:10
 午後4時過ぎ。待ち合わせの時間より早く駅に到着したため、バスロータリーの向かい側にあるファーストフード店に入る。
 僕はあまりファーストフード店は好きではない。ただ、今の時期に販売されるシェイクは結構気に入っていて、短時間の時間つぶしにはちょうど良いだろうと入ることにした。
意外にも店内は、この時間にしては混雑していた。暑さしのぎの客の入りもあるのだろう。シェイクを乗せたトレーを片手にひととおり店内を歩いて空いている席を探すが、気に入った場所は見当たらなかった。やむなく、1階の窓際にある席を選んで腰掛けることにした。気おくれするほど隣席との間隔が狭く、体を横にしてすり抜けようとしたがやはり隣のテーブルに足がぶつかってしまった。厳しい視線を背中に感じ、焦って胸ポケットの携帯電話を取り出しメールをチェックしている風を装う。隣の席に座っていた70代半ばぐらいの老婦人たちは、少し間をおいて再び会話しはじめた。
聞くとはなしに、二人の会話が耳に入る。
「前の離婚も浮気が原因だったっていうのに、また浮気してバツ2になるなんてねぇ・・・。そりゃあ、本音を言えば女房がいても他の女性を好きになることはあるでしょうけど、そこを自制するのが常識ある大人の取るべき行動じゃない?」
 そう言ってずれ落ちそうになる眼鏡を指でつまみ上げながら、斜め向かいに座っている婦人が溜息をついた。
 なんとなく居たたまれぬ気持ちになる。それでなくても人が密集している店内は、隣人の肌の熱気さえ伝わってくるようなむし暑さがこもっていてあまり居心地がよくない。無論冷房は入っているのだが、さっきまで炎天下を歩き回って汗だくになっている体を瞬間冷房してくれるほどの冷風ではない。
 僕は鞄の中に扇子が入れてあったのを思い出し、すぐさま取り出して勢いよくあおぎ始めた。一瞬隣席の二人にちらっと横目で睨まれたが、素知らぬ顔でやり過ごす。
「山本さんのお坊ちゃんは、結婚して何年?」
 ややあって僕の横に座っている婦人が、向かい席の眼鏡の婦人に話しかけた。
「息子が今年51だから、かれこれ20年ぐらいになるわね」
 無表情にそう答えて、ふいに彼女は話題をそらした。
「ーーわたしね。今の主人と結婚する前、好きな人がいたの」
 

 
遠くを見つめるような目で眼鏡の婦人がそう言ったとき、僕は反射的に彼女の顔を直視した。だが夫人はそれには気づかぬらしく(心ここにあらずといった風で)、ただ窓の外を行きかう人の流れを呆然と眺めている。隣の婦人はかける言葉が見つからないのか、黙って彼女の言葉の続きを待つ素振りである。
「今のわたしの好きなもの、みんなその人の影響なのよね。カンツォーネもオペラも、彼と付き合うようになって好きになったの・・・。主人からはなんの影響も受けなかったわ。あの人、お酒だけは好きでよく飲んでたけど趣味っていっても特にない人だし。新宿の角筈によく遊びに行ったりしたのよ、付き合ってた彼と。でも、労働組合に入っていて、ちょっとしたトラブルが起きた時、責任をとって会社を辞めたの。本当は結婚したかったんだけど、父に職のない男じゃ苦労するぞって言われて。それで今の主人とお見合いして一緒になったのよ」
「いいご主人じゃないの!優しくてーー」
 相槌を打つように、隣の婦人が口を開く。
「そうね・・・。今の主人に満足してるっていう訳じゃないけど、付属品には満足してるわね」
 眼鏡の婦人はそう言って、口元に笑みを浮かべた。
 視線の端で眼鏡の婦人をとらえながら、僕は最後のシェイクを飲みほした。まだ時間はあるし、アイスコーヒーを追加注文しようと思い立ち席を立つ。コーヒーを持って戻った時、すでに隣の二人は席を立っていた。窓の外を見ると、信号が変わり、駅へと向かう横断歩道を渡る二人の後姿が目に入った。老いを感じさせる、ゆっくりとした足取り。
 やがて駅の改札前まで来たところで、二人は別れ別な方角へ向かって歩きはじめた。その直後だった。眼鏡の婦人が突然立ち止まり、すれ違いざま脇を通り過ぎて行った一人の老紳士を振り返った。その時の彼女の表情。驚きに満ちた眼差し・・・。そこには先程までの老婦人の面影はなく、ただ愛しい人をじっと見つめる切なげな乙女の眼差しがあった。
そしてーー次の瞬間、僕の目には確かに、たまらず恋人に駆け寄って行く若い娘の姿が映った。


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COMMENT - 6

Sat
2013.09.07
05:43

meronpanda #em.gJc5k

URL

NoTitle

絵がかけたり、文章を書いたりできる人に凄く憧れます。。。

僕はまるっきり才能が無いもんで(笑)

いつも楽しみにしています。。。

Edit | Reply | 
Sat
2013.09.07
07:46

コゴロー #-

URL

NoTitle

どうもコゴローです。

『執筆の合間に』面白かったです!

眼鏡の婦人が言った「付属品」がなんとも意味深な黒さを感じさせますね。ラストでかつての思い人に会うシーンを思うと、喜んでいいのか、今の御主人を大切にして!と思うべきなのか考えさせられます。

続きを楽しみにしています!

Edit | Reply | 
Sat
2013.09.07
15:20

エンジェルズアイ #-

URL

meronpanda様

こんにちは^^
ショートストーリー、読んで下さってありがとうございます!
わたしは絵はかけませんが、小説はなるべく物語の場面を想像しやすいように書こう・・・と心掛けています。読みやすい作品になっているとよいのですが・・・
「楽しみにしています」とのコメントありがとうございます。とても励みになります!

Edit | Reply | 
Sat
2013.09.07
15:47

エンジェルズアイ #-

URL

コゴロー様

お久しぶりです^^

> 『執筆の合間に』面白かったです!
>
> 眼鏡の婦人が言った「付属品」がなんとも意味深な黒さを感じさせますね。ラストでかつての思い人に会うシーンを思うと、喜んでいいのか、今の御主人を大切にして!と思うべきなのか考えさせられます。
>
> 続きを楽しみにしています!

コメントありがとうございます。
ふっと作品のアイデアが浮かび、思いつくまま書いてみました^^
「面白かった」と言っていただけて感激です!
眼鏡の婦人の心のあやを描くことで楽しんでいただけたら・・・と思って書いた作品なんです。
老若男女を問わず、人の心には純粋で深い思いがあるのだということを描いてみたいと思いました。
次回作の構想は今のところありませんが、また思いついたらUPしたいと思っています。あるいは何かお題をちょうだいしたら・・・。不定期なので間はあくと思いますが、気が向いたらまた立ち寄ってみて下さいね。

Edit | Reply | 
Sat
2013.09.07
15:47

nanaco☆ #-

URL

面白い試みですね♪

エンジェルズアイさん、こんにちは~♪

ちょっぴりご無沙汰している間に、沢山更新されている!と
嬉しくなって、思わずコメントしちゃいます(*^-^)

私の大好きな作家・恩田陸さんの雰囲気に
似たものを感じて、ワクワクしながら読ませて頂きました。
老婦人の若かりし頃の思い出、戻らない日々、、、
過ぎ行く夏の終わりのお話にピッタリですね。
胸がきゅっと切なくなります。とても良いお話でした^^

そうそう、先日UPされていた恋物語も読ませて頂きましたが、
これも面白かったです!続き楽しみに待っていますね~(*'ー'*)

Edit | Reply | 
Sat
2013.09.07
17:07

エンジェルズアイ #-

URL

Re: 面白い試みですね♪

> エンジェルズアイさん、こんにちは~♪
>

こんにちは~^^

> ちょっぴりご無沙汰している間に、沢山更新されている!と
> 嬉しくなって、思わずコメントしちゃいます(*^-^)
>
コメントありがとうございますw

> 私の大好きな作家・恩田陸さんの雰囲気に
> 似たものを感じて、ワクワクしながら読ませて頂きました。
> 老婦人の若かりし頃の思い出、戻らない日々、、、
> 過ぎ行く夏の終わりのお話にピッタリですね。
> 胸がきゅっと切なくなります。とても良いお話でした^^
>
え!・・・あの「ノスタルジーの魔術師」と呼ばれる恩田先生にですか!!
嬉しすぎて言葉もありません・・・><(感涙)

> そうそう、先日UPされていた恋物語も読ませて頂きましたが、
> これも面白かったです!続き楽しみに待っていますね~(*'ー'*)

はい。「恋物語」というタイトルにふさわしい内容の作品にするべく、日夜構想を練っているところです。当面は週1回ペースの執筆になると思いますが、ときどき違った作品もUPしたりする予定でおりますので、よろしければ是非ご訪問下さいね。

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