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自作のファンタジー小説と日々の日記のブログ

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執筆の合間に 第2話

 22, 2013 11:27
それは、A4サイズの厚めの茶封筒だった。
郵便受けに入っている小包をじっとのぞき込みながら、僕は彼女がずっと待ち望んでいた郵便物はこれに違いない!と、そう直感したのだったーー。

 彼女がこのマンションに引っ越してきたのは、約一月ほど前のことだった。8月末締め切りの原稿に追われ、部屋に缶詰め状態になっていた僕は、突然鳴ったチャイムを煩わしく感じながらも席を立ち、しぶしぶ部屋のドアを開けた。
 その時の僕は、さぞかし不愉快な表情を浮かべていたに違いない。ドアの向こうでにこやかな笑顔を浮かべて立っていた彼女の顔が、僕を見た途端表情をひきつらせたのを今でも覚えている。だが、彼女は生来が明るい性格だったのだろう。そんな気まずい初対面であったにもかかわらず、その後も通路ですれ違うたび、彼女はいつでも屈託のない明るい笑顔を向けてくれたのだった。そんな爽やかな彼女に、僕が心惹かれるのにそう時間はかからなかった。
OLをしているらしい彼女は、毎朝きっかり同じ時間に会社へと出勤して行く。僕はその時間を見計らって、マンションの出入り口にあるゴミ捨て場へと下りて行くようにした。そうすれば、自然彼女と顔を合わせることになり、挨拶をかわせるからだ。こうして初対面での僕への悪印象も、少しは払拭できたのではあるまいかと自負しはじめていた矢先のことであった。
 たまたま編集部での打ち合わせを終え帰宅した僕は、玄関ホールの隅にある人気のない郵便受けの前でたたずむ彼女を見かけた。
彼女はどこか思いつめた顔で、一人自分の部屋の番号が記された郵便受けを見つめている。何となく声をかけづらくそっと様子をうかがっていると、彼女は息を整えるように大きく一つ深呼吸をした。そして恐る恐る鍵を開けて中の手紙を取り出したのだが、お目当てのものがなかったのか、落胆したように小さな溜息をもらした。
その後も、僕は何度か同じような光景を目にした。そうする内マンションに出入りするたびに郵便受けの中身が気になるようになり、人のいない時には、つい彼女の部屋番号の箱に何か入っていないか覗き見るようにまでなっていった。
ーーそして、そんなことが続いたある金曜日の夜のこと。ほぼ定時を守って帰宅する彼女が、その日に限っては夜遅くまで帰って来なかった。僕は近所のコンビニへ出かけようと玄関ホールまで降りたのだが、ちょうどそこへ小包を抱えた郵便配達人が彼女の郵便受けに小包を入れるところに出くわした。僕は自分の郵便受けを確認するような素振りで郵便配達人が去るのを待ち、いけないこととは思いつつも彼女の郵便受けの中を覗いてしまったのだった。
 中に入っていたのは、分厚い茶封筒の包みであった。
見た瞬間僕は、正直中に何が入っているのかこっそり開けてみたいという衝動に駆られた。だが、万が一小包の中身を勝手に見たことが発覚でもしたら・・・、そしてそれが自分ではないかという疑惑がもたれでもしたら、僕に対する彼女の印象は最悪のものになってしまうだろう。そう思うと、なかなか勇気が出なかった。
その夜、僕はまんじりともせず、帰宅してくる彼女が荷物を見てどんな反応を見せるだろうかと、自分の部屋の玄関ドア越しに向かいの部屋の様子に聞き耳をたてていた。
しかし・・・夜遅く帰宅した彼女は、普段以上に静かに部屋のドアを閉めたきり、その後、声をあげるどころか物音一つたてることはなかったのである。
 翌朝、僕はいつもの時間にゴミ置き場へと降りて行った。土曜日にもゴミの収集はあるが、会社の休みの日には彼女が姿を見せることはない。分かってはいたものの、もしかしたらゴミを捨てにくるかも知れない・・・そんな淡い期待を抱いていた。だが、それはやはり期待外れに違いなかった。僕はしばらく待って無駄だと悟り、持ってきたゴミを分別して収集箱に入れ部屋に戻ろうとした。ところが箱のふたを閉じようとしたその時、僕は一瞬可燃ゴミの中に気になるものを見つけて手を止めた。
(これは!・・・あの茶封筒じゃないか?)
 何とそこには、昨日見たあの彼女あての小包が無造作に投げ捨てられていたのである。明らかに開封された後はあったものの、封筒の厚みからしても、中身はほぼそっくり捨てられているように見受けられる。僕は周囲に人がいないのを確認すると、茶封筒を拾い上げて小脇に抱えこみ、そのまま小走りに階段を駆け上がって自分の部屋へと舞い戻った。

 
僕は机に向かい・・・心を落ち着けてから、茶封筒の中身を取り出した。
中に入っていたのは女性らしい優しいタッチの漫画の原稿だった。そして、それに添えて書かれた出版社側からのものらしい手紙。罪悪感に駆られながらも目を通していった僕は、あまりに冷たいその文面に胸が貫かれる思いがした。彼女はこれを読んで、どんなに落胆したことだろう。懸命に書き上げたに違いない原稿を、そっくりそのまま捨ててしまいたくなるほどに・・・。そう思うと、とても辛かった。
僕は原稿の中から気に入った絵を切り抜き、それを幅広の筆入れに貼りつけた。殺風景だった僕の机の上に、彼女のほのぼのとした温かい世界が広がる。優しい・・・ひだまりのような彼女の心が伝わってくるようだった。諦めないで欲しいーー。僕は心からそう願わずにはいられなかった。
 数日後、外出先から戻った僕は、管理人室前で彼女がマンションの管理人と話しているのを見かけて足を止めた。いつものようににこやかに話す彼女の顔に陰りは感じられない。僕は少し安心してエレベーターの方へと向かった。すると、少し遅れて彼女もやってきた。視線を合わせ、軽く挨拶をかわす。やがて到着したエレベーターに揃って乗りこむと、珍しく彼女の方から話しかけてきた。どうやら、僕が作家だということを管理人から聞いたらしかった。
「夢のあるお仕事ですよね・・・」
 そう言う彼女の顔が心なしか寂しげに映る。
「実はわたしもずっと漫画家になりたくて、就職してからも原稿を出版社に送ってたりしてたんですよ。でも、やっぱり自分には才能がないってことが分かって・・・諦めることにしたんです。いつまでも中途半端なことはしていられないし。これからは今の仕事に、もっと真剣に取りくもうって思っています」
そう言って開いたエレベーターから降りようとして軽く会釈する彼女を、僕は引き留めるように言った。
「良ければ、僕の仕事場をのぞいてみませんか?もし・・・興味があるようでしたら」
 彼女は振り返り、驚いたように僕の顔を見つめたが、すぐに顔をほころばせ嬉しそうに肯いた。
「え!・・・よろしいんですか?」
「もちろんです!どうぞ・・・」
 そう言って僕は部屋のドアを開き、彼女を中へと招き入れた。
「何だか懐かしい感じのするお部屋ですねーー」
 部屋に入ると、彼女はそう言って、珍しげに僕の仕事場を見回した。
「そうでしょうね。ここには僕が小学校の頃から使っているものもたくさん置いてありますから」
 僕がそう応えた時だった。彼女はアッと叫んで僕の机の前に立ち止まった。
「この筆入れ・・・」
 それは僕が彼女の絵を貼りつけた、あの筆入れだった。
 彼女の目が大きく見開かれる。僕は彼女の視線をかわすように、机の上に置かれた筆入れを見下ろしながら言った。
「<台詞のない物語>って知っていますか?僕が小学校の頃、とても人気のあったイラストレーターの代表作です。当時彼の絵は文房具のデザインにもなっていました。よくクラスの女の子たちが、この絵が描かれた筆入れを持っているのを見かけたものです。この絵は最近、偶然拾ったものなんですが、あの絵にとても良く似ているなぁと思って筆入れに貼ってみたんですよ。たった1枚の絵ですが、見ているとまるでドラマのワンシーンのようで、今にも物語が始まりそうな気分になる。そうは思いませんか?」
 僕の言葉に小さくうなずく彼女の目から、一粒の涙がすっーと頬を零れ落ちた。
「ええ・・・、わたしも今思い出しました。わたし、この絵を見て自分も絵描きになりたいって思ったんです。でも、そのことをいつの間にかすっかり忘れていました。わたしが描きたかったものは<台詞のない物語>。たった1枚の絵から生まれる物語だったんです・・・」
 僕は筆入れを拾い上げ、彼女の目の前に差し出して言った。
「人にはそれぞれ違った才能があるものです。表現方法を変えてみることで、道が開けるということもあるんじゃないかな?」
 彼女はゆっくりと筆入れを受け取り、小さく肩を震わせながら言った。
「わたし、もう一度頑張ってみます・・・」
 彼女のこの言葉に僕は安堵し、机の引き出しから捨てられていた彼女の原稿の残りを取り出そうとした。とその脇で、彼女が不思議そうにこう呟いた。
「それにしても、何だか・・・とても奇妙な感じだわ。<台詞のない物語>は絵本になっていて、以前読んだことがあるんですが、この絵はどこにも描かれていないんです。でもわたしが文房具店で見た絵は、確かにこの絵だったような気がするんですが・・・」
 その瞬間、僕の脳裏にもある記憶が鮮明に蘇った。そうだ!この絵に見覚えがあったから、僕も筆入れに貼ろうと思いついたのだ。でも今の彼女の言葉が確かだとすれば、この絵を見ているはずはない・・・。いったい何故?
 僕らは言葉を失い、呆然と互いに顔を見合わせたーー。


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COMMENT - 2

Sun
2013.09.22
19:45

マウントエレファント #TO/PCoV.

URL

ファンタジーの新境地ですね

待った甲斐がありました。いい作品に仕上がりましたね。
一枚の絵から生まれる物語が、二人の男女の運命をつなぎ、そしてそれが、彼女らのために描かれた絵かもしれないなんて。
ファンタジーと恋愛がうまく結びついて、いい余韻を残すドラマになっています。

Edit | Reply | 
Sun
2013.09.22
23:19

エンジェルズアイ #-

URL

Re: ファンタジーの新境地ですね

嬉しいお言葉の数々、本当にありがとうございます!
捻りのある作品にしたいと、わたしなりに工夫を凝らしてみました^^
新境地とまで言えるほどではありませんが、ファンタジーが苦手な方にも楽しんでいただける作品を書けないものかと現在試行錯誤しているところです。
次回の掲載予定は今のところ未定ですが、できればクリスマスの頃くらいまでには・・・と考えています。その時はまた、感想をお聞かせくださいね^^

Edit | Reply | 

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