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レッド・キングダム 第1章  第3話

 22, 2016 23:31
 寒暖差の激しい荒野では、昼間どれほど汗ばむ陽気になっても、夜には湿った冷気が大地を覆う。
明け方の肌寒さからか、ふと目を覚ましたカムルは、庭先で物音がするのに気づき寝床から身を起こした。

「お目覚めですか・・・? カムル族長」

いちはやく主の気配を察したのだろう。こちらに背を向け、窓を塞ぐように外で仁王立ちしている大柄の男が、低い声で呼びかけた。

「イヨンか」

マリナ族で一、二を争う剛の者であるイヨン。彼自らがカムルの身辺警護にあたることは常にはないことであった。

「昨晩、アニタが失踪致しました。恐らく、あの者のもとへ向かったものと思われます」

(やはりか・・・)カムルは胸のうちでつぶやいた。

アニタがスネル族の者ではないかと怪しむようになったのは、つい一月前のことであった。
もともと彼女は、この村を訪れた奴隷商人から買いつけた女奴隷の一人であった。その時は、他の娘たち同様、北方の寒村の生まれとばかり思っていた。

しかし、貧しい生まれにしては体は頑強で身のこなしにも隙がない。
とても、ただの村娘とは思い難かった。

そこでイヨンに命じ動きを見張らせていたのだが、ここにきてようやく尻尾をつかんだ。
アニタは度々屋敷を抜け出し、村外れでこっそり何者かと会っていたが、それがスネル族の間者であることを突き止めたのである。

王位継承争いにスネル族が一役かうであろうことは、カムルにも予測がついていた。
賢者エザックを招いた時から、スネル族が何らかの動きをみせるのでは、とも思っていた。

「そうか・・・。客人達の会話を盗み聞きし、何かをつかんだのだろう。追手はつけてあるのか? 」

「はい。ご指示通りに・・・ 」

アニタが姿を消したからには、賢者たちの間で次期王位継承者についての具体的な言及がなされたに違いない。
となれば、早晩、連中も動き出すだろう。

「よろしい。では、わしはこれから城へ参ることにする。お前も伴をせよ」

「はっ!」

王に謁見を乞う際、カムルは決まってマリナ族が戦いの場でまとう獣の毛皮を羽織って出向くのを常とした。
それがマリナ族を象徴する出で立ちでもあり、戦士として王への忠誠を示す何よりもの証ともなったからである。
身支度を整え屋敷の大広間へと入って行くと、こちらに気づいた奴隷頭のクシュイが、血相を変えて走り寄って来た。何かを言いかけようとする彼を片手を上げて制し、カムルは言った。

「アニタはもう戻らぬ! 代わりの奴隷を、また一人探しておけ」

取りつくしまもない主の言葉に、クシュイは当惑の色を浮かべた。無骨だが実直な彼は、仲間の奴隷が謎の失踪を遂げたことに、少なからず衝撃を受けたようであった。
奴隷が主に無断で姿を消せば、重罰刑に処されるのが決まりである。
ところが彼の主は、女奴隷を捜せとは命じない。咎めもせず、ただ捨て置こうとしている。そのことが、どうにも彼には釈然としない様子であった。
複雑な表情でクシュイが広間から出て行こうとしたところへ、入れ違いに妻がやって来るのを見かけ、カムルが声をかけた。

「わしはこれから城へ行って来る。王に結婚のお許しをいただかねばならぬからな。トワンヌも連れて行く。急ぎ支度をさせておけ」

トワンヌの年の離れた弟の手をひいていた彼の妻は、夫を少しの間見つめていたが、傍の女奴隷に幼い息子を連れて行かせ、自分はトワンヌを迎えに広間から出て行った。

カムルが、トワンヌを伴い城へと出発したのは、それからしばらくしてのことである。
彼は娘を二頭立ての馬車の荷台に乗せた輿に座らせ、自身は勇壮な出で立ちで愛馬の背にまたがった。
そして娘の乗る輿を護衛する馬上のイヨンのほか、御者を務めるクシュイの息子、さらに武装した数人の奴隷が徒歩でそれに従った。

屋敷のある村から、城のある町テラフィムまでは半日ほどの道のりである。
途中、砂塵の舞う荒れ果てた土地にさしかかった時であった。

輿に揺られていたトワンヌが、突然、何かを思いついたように父を振り返って言った。

「おとうさま。アニタは間者だったのですか?」

無言のまま、ずっと遠くをぼんやり眺めていた娘が、唐突にそう問いかけたことにカムルは内心面食らった。

「恐らくな。王が病にふせっておられる時だ。不穏な動きをする者もいるだろう」

「また戦乱が起きるのでしょうか・・・」

 遠い目をして、 トワンヌが続ける。

「民が望んでいなくとも、権力への欲望は人を狂わせるものだ。王位をめぐる争いは避けられぬだろうな」

「おとうさまは、二人の王子のいずれの派閥につかれるおつもりなのですか」

 幼い頃から聡明な娘ではあった。
 しかし、愛らしい娘でいてくれることを心から願うカムルは、政治の話題を掘り下げることを拒んだ。

「派閥になど興味はない。わしは王が下される決断に従うまでのこと」

「王子のご機嫌とりをはじめた者たちも多いと聞き及びます」

 娘の発言に、カムルの顔が曇る。

「これは驚いた! トワンヌは政治に興味があるようだな。だがお前はもうすぐ嫁ぐ身。今のように夫に口出しなどするものではないぞ。慎むがよい! 」

 声を荒げる父に、トワンヌはたじろいでうつむき、口をつぐんだ。

 沈んだ表情の娘を見て、カムルは内心後悔した。
 しかし、王位を狙う争い事に巻き込みたくはないという思いの方がそれを凌駕した。
 
 やがて、一行は城を囲む町ティラフィムの長大な城砦へと到着した。



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