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レッド・キングダム 第1章 第5話

 03, 2016 23:24
天蓋にかけられた浅黄色の垂れ幕が、窓から差し込む陽射しに透けて、まどろむ王の青白い顔色を心もち明るく照らした。

床についてから、もう数か月が経つ。

休むことを知らなかった頑強な身体も、老いたる身となり病に侵されてからは、肉は削げ落ち、骨が浮き出て、四肢も思うように動かせぬ有様。

戦場を軍神のごとく駆け抜けた日々はいずこと、懐かしむ日々を重ねるうち、心もすっかり弱り果て・・・・・。

ユーカスは、生き恥をさらすような己の姿を顧て、大きくため息をついた。

(せめて、死ぬまでに神に許しを乞い、己の犯した罪のつぐないをしたい・・・・・・)

しかし、王として国政に混乱をきたすような行いは自重せねばならない。

まして王妃は、先王の娘・・・・・。
己の息子が王位に就くことを信じて疑わず、その行く末を案じて既に動きを見せていることにも薄々勘づいていた。

親子ほども年の離れた先王の娘を妻に娶ることになった時、罪の大きさに恐れを抱かなかったわけではない。それでも王座を前にして、いかなる大罪も厭わぬ覚悟であった。

もしも今、自分の夫が名を偽り王位に就いた者と知ったなら、王妃の屈辱はいかばかりであろう。
そのうえ、自分の息子ではなく、別な者が王に相応しいと選ばれたなら、憤怒の矛先はどこに向けられるであろうか?

王妃の憎しみが自分に向けられるのであれば、無論、罪のつぐないとして受け入れよう。
しかし、新たなる王位についての言及であったなら、受け入れることはできない。

神聖な事柄を穢す行為が、どれほど大きな代償を払うことになるかは、これまでの人生で嫌というほど味わった。
同じ罪を犯すつもりはもうない。
たとえ我が妻や息子の憎しみをかうことになろうとも、次の王は神の示される王をたてるのが余の務め。

しかし・・・、キング・ユーカスの心は暗澹とした。
死んで後、偽りの王として揶揄され、不名誉のまま民に忘れ去られることになったなら。
これまで自分が築き上げてきたものが、全て汚辱にみちたものと打ち捨てられることがあったなら。

それは、あまりにも虚しい。
己の生死をかけ、戦い守ってきたこの国への忠誠心までが、不浄なものと扱われることは耐えがたい屈辱である。

彼は迷った。
高潔な決意も、ともすれば打ち砕かれ・・・・
浅ましいとは思っても、揺れ動く心は抑えることができない。

深い闇の縁に立ち、道を探しあぐねる彷徨い人のように
王は己に問い続けていた。

と、その時ふと静寂が絶たれた。

「王様、カムル族長がおみえになっています。御身内に婚儀がまとまり謁見を申し出ておられますがー 」

侍女の声に、たちまち闇から引き戻され、キング・ユーカスは目を開けた。

「おぉ、カムルか・・・。 構わぬ、通すがよい! 」

すぐに、カムルとトワンヌが王の寝所へと通された。
大理石の床に靴音を響かせながら二人が部屋に入って行くと、王は枕を背もたれにして両手を広げ、明るい笑顔で出迎えた。

「キング・ユーカス!」

 王の顔を見るや、カムルはそう叫んで床に跪き、寝台の主君に向かい深々と頭を垂れた。

「あまりに顔を見せぬゆえ、もしや死んでしまったのではないかと思っていたぞ!」

そう言って快活な声で笑う王に、カムルも返すような大声で笑った。

「そうあっさり死ぬわけにはまいりませぬ。王がわたくしめを戦場におつかわし下されば、このカムル、老骨に鞭打っても馬を駆り、敵の首をを打ち取って見せましょう! 」

「それは、心強い。カムルが先陣をきれば、敵兵も恐れて後じさりするというもの。鬼神の異名を取るそなたの形相には、いかに勇猛な軍馬も怯えて立ち上がり、主を振り落として逃げ去るに違いないからな」

カムルは苦笑して問うた。

「王よ・・・、わたしはそれほど恐ろしい顔をしておりますか?」

頭に手を当て、情けない表情を浮かべるカムルに、ユーカスも声を和らげた。
 
「すまぬ、ちとからかい過ぎたようだ。ところで、今日は祝い事の報告があると聞いておるが、そこにおるのはそなたの娘か?」

「はい。娘のトワンヌでございます。このたび嫁に迎えたいという者がおり、王にお許しをいただきたくまかりこしました」

カムルは後に控えていたトワンヌを手招きすると、王の近くへ進み出るように言い、その足元にかしづかせた。

ユーカスは見惚れるようにトワンヌを眺めて言った。

「そうか。相手の男は幸せ者だな・・・。これほどの美人は、国中を見回してもそうはおるまい」

「トワンヌ、嫁入りを許そう。夫と幸せな家庭を築くがよいぞ」
 
 トワンヌはこの時、自分の頭に置かれた王の手の温もりを感じ、一人感激に震えていた。

威厳のある風貌、精悍さを感じさせる張りのある声、そして何よりも人を魅了してやまない、その豊かな表情。
老いや病といったものを微塵も感じさせない王の堂々たる態度に、王の権威とはかくも覇気に満ちたものなのかと、深く感じ入っていた。

(誰もが、王になりたいと願うはずだわ・・・・・)

王のもとを辞し、王宮の柱廊を父とともに歩いて行きながらも、トワンヌは新たなる王へと思いを馳せずにはいられなかった。
そうして彼女に話しかける父の声にも、つい気づかずにいたため、業を煮やしたカムルがいきなり声を上げた。

「トワンヌ! 聞いているのか? 」

びくりとして振り向いた娘に、カムルが厳しい眼差しを向ける。

「これから王妃様のもとへうかがう。王は床につかれていたため、輿には乗らずに謁見したが、王妃様の前に進み出る時は輿に乗るのがしきたりだ。王妃様がお呼びになるまで、お前は輿に乗って前庭でお待ちしていなさい。良いな」

トワンヌは静かにうなずき、庭先に立ちこちらを見ているイヨンの方へと歩いて行った。

          

「これはカムル。久しぶりですね」

シーラは、部屋の入り口で剣を胸に押し当て、深く頭を垂れる老いた戦士に向かい声をかけた。

「シーラ王妃様、このたびは娘の結婚をお許しいただき、誠にありがとうございます」
 
カムルはやや声をうわずらせ、神妙な面持ちでシーラ王妃の方へと進み出た。

「他ならぬカムル族長の御身内のことですもの。当然ですわ! 」

言葉とは裏腹に棘のある声音に、カムルの表情が曇る。




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