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KURAMA (番外)2

 24, 2012 18:01
 矢切りの渡し


 連れて逃げてよーー。

 ついておいでよーー。


 高尾は、公衆電話BOXの中で受話器を握りしめたまま泣き崩れる若い女性の姿を、ずっと見つめていた。

 すでに夜の帳が落ち始めている神社の境内で、彼女は身じろぎもせずじっとその女性を見守っていた。隠れ蓑を外套に変え姿を消している高尾に、涙にくれるその女性が気づくはずもない。
 何故、そんなに泣くの?
 今の時代、道ならぬ恋などありはすまいにーー。
 高尾はしかし、とめどなくあふれる涙で顔をくしゃくしゃにした女性の横顔から目をそむけることができなかった。激しく嗚咽をこらえてはしゃくりあげる哀れな彼女の姿が、忘れかけていた記憶をーー切ない思い出を、高尾に思い出させていたからである。

 それは、時を遡ることざっと数百年前ーー。
 決して許されない恋というものが、まだこの世に存在していた時代のことである。
 当時の高尾はまだ若く、天狗としてようやく独り立ちが許されたばかりの頃であった。高尾山の山腹に天狗をまつるほこらがあり、彼女はそこに身を置くことを決意した。関東は家康がまつった稲荷明神の勢力があまねく世を席巻しており、天狗である彼女にとって決して安穏な任地ではなかった。それでも彼女はあえてこの地を選んだ。それはともすると見下げられがちな、尼天狗である彼女の意地もあったのかも知れない。
 ともかくも、高尾は夜昼となく関東平野いったいを飛び回り、よくその任を果たしていた。
 そうして1年が経とうとしていたある夜のこと、高尾はその二人に出会ったのである。

「連れて逃げてよ!」
 川岸の藪のなかから若い女の悲痛な叫び声がして、興味をひかれた高尾は近くの渡し場の上に舞いおりた。
 声のした方を見ると、藪の中に辺りに目を走らせしのびあう若い男女の姿がある。娘の方は装束から察するに、良家の息女と見受けられた。立ち居振る舞いから武家の出のように思われる。一方男の方はいかにもみすぼらしく、つぎはぎだらけの着物をまとった浪人風の男であった。
「お嬢様。わたくしについて来られたら命はありませぬーー」
「わたくしを置いていかないで!どうか後生だから、そんなことは言わないでちょうだい!」
 娘は浪人の袖にとりすがり嘆願していった。
「わたくしはあなたと、終生ともに生きて行こうと堅く心に決めたのです。ーーたとえそれが道ならぬ恋であろうとも」
 浪人は肩を落とし、うなだれていった。
「このようなことになろうとはーー。亡くなった父も、決してわたくしをお許しにはなりますまい」
 娘は浪人の背にしがみつき、声をおし殺しむせび泣いた。
 娘にしてもまた、彼女の両親を裏切ることに変わりはなかったからである。浪人は娘をかき抱き深く彼女にわびた。
 その時である。風にのり複数の人々の話し声が二人の耳にとどいた。とっさに彼らは互いに顔を見合わせ、息をひそめた。
ーー追っ手である。

 
        **********

「おおい!そこの船頭。この辺りで、若い二人連れを見かけなかったかい?」
 今まさに船を漕ぎ出そうとしている渡し守に向かい、侍の一人が声をかけた。
「いいや。誰も見かけやしませんでしたがーー」
 船頭はそういって、川岸に立つ侍たちを見やった。
 声をかけた侍は首をかしげながら仲間たちと何やら囁やき合っていたが、ふいに「おい船頭ちょっと待て!」と怒鳴り声をあげた。
「こんな遅くに川を渡ろうとするとは、どうも不審な奴だ。船をあらためる!こっちへ来い!」
 渡し守は、彼を睨みつけている侍たちに抗うのも無駄と知り、船を渡し場へとひき返した。
「妙だな。船には客はおらんのか?」
 侍たちがちょうちんの明かりで照らしてみても、船には人の姿はなく、船底に数本の丸太とそれを覆う敷き藁が広げられているきりであった。
「へい。あっしがねぐらに帰るだけのことでして」
 渡し守はそういって、申し訳なさそうに頭をかいた。
「もうよい!」
 呼びとめた侍は吐き捨てるようにそう言うと、仲間に声をかけ街道の方へと去って行った。渡し守は力をこめて竿をふるい、船を川の中央へと押し出した。ゆったりと船が川面に滑り出す。そうして船は川岸からずいぶんと離れ、夜目には人目につくまいと思われるところまで来た。するとふいに渡し守が船底の丸太に向かって話しかけた。
「そろそろよいでしょう。蓑をはずして出ていらっしゃい」
 こういうが早いか、渡し守はいつの間にやら一人の天狗の姿へと変わっていた。
 その声におうじるように、さきほどの男女が船底に姿をあらわした。彼らは天狗に借りた隠れ蓑を手にしている。
「天狗様。誠にありがとうございました!我ら二人、命拾いを致しました!」
 浪人はそういって蓑を高尾に差し出し、娘とともに船底にはいつくばって礼を言った。
「礼にはおよびません。わたしは殺生を好まぬだけのこと。それよりこのまま向こう岸へ渡ったところで、いずれ追っては来ましょう」
 高尾はそういって、二人に身につけている着物を脱いで丸太に縛りつけるようにといった。
「結び目は少しゆるめておくのです。しばらくしたら丸太から離れ、川面に浮かびあがるようにね」
 二人は着物を縛り付け、高尾に何度も何度も礼を言った。これで、二人は川に飛び込んで無理心中をはかったと思われるであろう。死者を追う者はいないーー。
「娘よ。そなたはこれで両親に死んだものと思われるでしょう。けれど世に、子に先立たれるほどの悲しみはないといいますよ。それほどに親を悲しませることになっても、悔いはしませんか?」
 高尾がそういうと、娘は高潔な尼天狗の神々しい姿を仰ぎ見つつ、目をうるませていった。
「子はいずれ親から離れていくものにございます。もう二度と会うことはかないますまいが、親を思う気持ちは生涯変わりはしませぬ。旅の空にあっても、あるいは地の果てに身を寄せることになりましても、陰ながら親の無事を祈るつもりでおります」
 けれど揺るぎない眼差しを向けながらも、娘の瞳からはいくつもいくつも大粒の涙がこぼれ落ちたのであったーー。

      ********

 遠い昔の物語。まだ道ならぬ恋がこの世にあった頃のこと。
 高尾は思った。あの二人はその後どうなったのであろうと?彼女が最後に二人を目にしたのは、関東の西の境の地であった。二人が手に手を取って中睦まじく街道を西へと向かう姿である。
 幸せになれただろうか?

 そんな思い出にひたっていた高尾の目に一人の青年の姿が映った。
 青年はゆっくりと公衆電話BOXに近づいて行く。
 にわかにBOXの中の女性の顔がぱっと明るくなった。彼女は涙をふりはらいBOXの外へと飛び出した。
 愛おしげに見つめる青年の眼差しが、彼女にそそがれる。二人はそうしてしばらく見つめあった。やがて女性は青年に駆け寄りその腕に飛び込んだーー。


 そうきっと、幸せになったに違いないーー

 高尾は、抱き合う二人を見つめるうち胸が熱くなるのを覚えたーー。

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