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短編 天使の名をもつ犬

 31, 2012 19:00
 薫は、動物病院の待合室のベンチに、ひとり腰かけていた。平日の午後三時過ぎ。病院から飼い犬の病状が急変した連絡を受けて、急ぎ駆けつけたのである。しばらくして看護師がやってきて薫は手術室にとおされた。
 手術台の上に、金色の毛並みの大きな犬が横たわっている。担当の医師が青ざめた薫の顔を見て、申し訳なさそうに言った。
「ーさきほど急に容体が変わり、意識を失ってしまいまして」
 医師は薫の飼い犬が、もはや手の施しようがないことを告げた。薫は悲痛な面持ちで金色の犬の頭にそっと手をおき、慈愛の眼差しを注いだ。薫の心には憐憫の情があふれ、深い後悔の念が胸をしめつけた。
ーずっと、一緒にいてやればよかった。

 薫の飼い犬は、体は大きいが至って温厚な性質で非常にひとなつっこかった。いつも笑っているような顔(これは薫の友人の言である)の犬である。神経質で短気な性分の薫は、いつもおっとりとしていて、どこかとぼけたような表情のこの犬といると、不思議と癒された。だが世の飼い犬の常と言おうか。彼らはひたすら主に待たされる宿命にある。薫の飼い犬も、やはり主を待ち続ける日々を送った。会社に出かける主の後ろ姿、たまの休日さえ飼い犬を残し遊びに出かける主の顔を、金色の犬はいつも悄然として見送った。
 そうして七年が過ぎ去ったある日、突然金色の犬は重い病気にかかってしまった。余命一カ月。薫は医師にそう宣告された。それからの一カ月。薫は心を改めて、できるかぎり飼い犬のそばにいるようにした。いつも笑っていた金色の犬は、いつしか笑わなくなっていた。薫は苦しいのかも知れない?といぶかしんだ。この犬が笑わないなんて、よほど痛みがひどいに違いない!病院で処方される痛み止めの薬だけでは頼りなく思えて、薫は日夜、天に祈るようになった。そうだ!この犬には天使の名前をつけたのだから、天使になら祈りがつうじるかも知れない!薫はそう思い立ち、大天使に向かって祈りを捧げた。
 犬が苦痛を感じませんように!死への恐怖に怯えませんように!
 そうしてちょうど一か月が過ぎた日、金色の犬は突然ばたっと床に四つん這いになって倒れた。薫は金色の犬を抱き上げた。全身の力が抜けた犬の体は、想像以上に重く感じられたが、薫は友人の助けを借り、なんとか犬を車に乗せ病院へと運んだのだった。それから数時間後、金色の犬は容体が急変し意識を失ったのである。
 
 医師は薫の目の前で、心臓マッサージを行った。薫はなすすべもなく、ただ飼い犬の頭に手を乗せ、心の中で天使に祈ったー。

 -金色の犬はこの世を去った。死の間際、怖い思いはしなかったかしら?薫はふと金色の犬が天使に抱き上げられている姿を心に重い浮かべた。葬儀の日は、朝から粉雪が舞っていた。この冬はじめての雪である。寺につくと、実家から母も駆けつけていた。葬儀を待つ間、母は薫に待合室で奇妙な話をした。それは今朝がた見たという夢の話であった。大きな池の端を歩いていた母は、小さな女の子があやまって池に足をすべらせ落ちるのを目撃した。驚き気を揉んでいると、誰かがすかさず池に飛び込んで、少女を抱き上げ救い出したというのである。
「誰かに助けられたみたいだったけど、誰が助けたのかは分からなかったのよー」
 母は考え込むようにそうつぶやいた。
ーその瞬間、薫の魂が歓喜にうち震えた。
 ああ、そうか!あの犬が命をおとし死の淵に沈みかけた時、天使が抱き上げ助け出してくれたのか!薫の脳裏をかすめた天使に抱き上げられた金色の犬の姿は、そのことを意味していたのだと、薫はこの時悟ったのである。

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