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童話 メリルさんの悩み 24

 31, 2012 19:52
 メリル婦人に名をつけられたカラスーーランディが、街外れの古びた馬車小屋跡の屋根の上にとまり、ファンタジガーデンからの待ち人を見逃すまいと緑の牧場の見張りに立ってから、はや1時間が経っていた。
 彼はふと丘の向こうに、小さな黒い影がゆらめき動くのを見つけ、興奮のあまり翼をばたつかせ前方に身をのりだした。目を凝らして見つめていると、影は土煙をあげながら街道沿いに徐々にこちらに近づいて来るのが分かったが、しばらくすると、それがこちらへと向かって疾駆してくる1台の馬車であることがランディにも見てとれた。
(メリルさんだ!!)、
 待ちかねた人の訪れに、ランディの胸が高鳴る。彼は喜びいさんで空へと舞いあがると、馬車の方へと矢のような勢いで飛んで行った。やがて眼下に馬車を見下ろせる距離まで近づいてみると、4頭の白馬にひかれた馬車の御者台には修道士服姿の男が座り、懸命に手綱をふるって馬を走らせていることが分かった。てっきりメリルさんが御者台にいるとばかり思っていたランディは落胆し、彼女の姿を探して客車のところまで急降下した。するとすれ違いざま、馬車の窓の奥に懐かしいメリル婦人の横顔が一瞬垣間見えたのである。
 ランディは旋回して、もう一度通り過ぎた馬車に近づきながら大声で叫んだ。
「メリルさん!僕です。ランディです」
 だが吹きすさぶ風と車輪の音にかき消され、すぐには彼の声は客車の人物には届かなかった。しかし必死の祈りがつうじたのか、偶然にも外の景色を見ようと窓から首をのぞかせたメリル婦人が、ランディの声と姿に気がついたのである。
「まあ、ランディ!」
 メリルさんは驚いた顔で、馬車のすぐ上空を飛びながらついてくる一羽のカラスを見上げた。
「メリルさん、僕が、マーシャル邸への近道をお教えします!どうか御者の人にそう伝えて下さい」
 ランディがそう叫ぶと、メリル婦人は頷いて御者に向かって大声で話しかけた。
「このカラスが屋敷へと道案内をしてくれるそうです。どうかついて行って下さい!」
 メリルさんの言葉に、御者台の修道士も馬車の上空を飛ぶカラスを一瞥し大声で答えた。
「分かりました!」
 ランディは、馬車がついてきやすいように普段より低めに飛びながら、マーシャル邸へと案内を始めた。刻一刻と時は過ぎ、メリル婦人がファンタジーガーデンを発ってからすでに3時間が経過している。
 彼女は膝に抱えた包みをそっとさすりながら、どうぞ間に合いますようにーーと心のなかで祈った。

「デービッド!わたしだ、チャールズだ。ドアを開けてはくれないか?」
 眠ったまま意識の戻らないクリスを心配そうに見つめていたデービッドは、ドアを叩いて呼びかけるチャールズに気付き、虚ろな声で返事をした。
「……今、鍵を開けます。ただ、入室はしないで下さい。それと大声もたてないで」
 ドアの向こうで、チャールズは承知した!と小声で返事をした。
 デービッドは立ち上がり、ゆっくりとドアのところまで行くと鍵を開けた。音もなくドアが開き、穏やかな表情を浮かべたチャールズが姿を現す。
「ギルバートとも相談したんだが、これからメリル婦人のもとへ使いを送ろうと思っている。彼女なら名もなき花を使って、クリス老人の傷を癒す手助けができるかも知れないからね」
 ところがチャールズの予想に反して、デービッドは苦笑いを浮かべて言った。
「それには及びませんーー」
 チャールズは唖然として、デービッドを見返した。
「何だって!てっきり君は名もなき花の力を信じているとばかり思っていたが」
「もちろん、信じていますよ。でももうメリルさんはこちらへ向かっているはずなんです」
「それはいったいどういうことだい?」
「昨日のうちに、僕の友達のカラスがメリル婦人を呼びに行ってくれたんです」
「カラスが?!……」
 チャールズは絶句して、いぶかしむようにデービッドを見つめた。
「僕がカラスと会話できると言っても、信じられませんか?」
 チャールズは慌てて首を振り、「いや、そういう訳ではないがーー」と言葉を濁した。
「つい昨日までは僕も動物と話しなんてできませんでした。でも、クリスが僕に動物と会話する方法を教えてくれたんですーー」
 チャールズは腕組みをして考え込んだ。と、そこへ突然セシリアが足早にドアの前まで歩み寄り、部屋の中のデービッドに呼びかけた。
「デービッドさま!メリル婦人がおみえになりました」
 デービッドは顔をほころばせ、「お通しして下さい」と返事した。

 すぐに、メリル婦人がクリス老人のいる客間へと通された。
「クリスさん!」
 メリル婦人は部屋に入るやそう叫び、ベッドに横たわっているクリス老人に駆け寄った。そして抱えていた包みを床におき、包みの覆いを取り去った。覆いの下に隠れていたのは、小さな鳥かごであった。しかし、中に入っていたのは鳥ではない。そこには、茎の先端に数輪の小さなつぼみをつけた可憐な花が植えられていたのである。
(ーーこれが、名もなき花?)
 誰もが、口々に声にはならない声でつぶやいた。
 とりわけ、チャールズはこの花の姿を万感の思いで見つめた。
 彼はつい近寄りたくなる衝動を抑えつつ、長年求め続けていたにもかかわらず一度も目にすることのなかった名もなき花を眼前にして、震えるような感動を覚えていた。
 メリル婦人はクリス老人の枕元に花の入っている鳥かごを近づけつつ、小声で何ごとかを唱え始めた。それは祈りの言葉のようにも聞こえたが、何を言っているかはっきりとは聞き取れなかった。デービッドはメリル婦人とクリス老人とを交互に見つめ、祈るような面持ちでクリス老人の左手を両手で握りしめた。
チャールズはそんな彼らの様子ををじっと眺めていたが、ふいに誰かに肩を叩かれ振り向いた。
「メアリー!」
 そこにはメアリーとギルバートの姿があった。
 二人は、セシリアからメリル婦人到着の知らせを受けやってきたのであった。彼らはいつ間にか集まって来た屋敷の使用人たちとともに、廊下に立ちつくしメリル婦人の一挙一動をくいいるように見つめた。


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