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童話 メリルさんの悩み 最終話

 31, 2012 23:09
ーーその光景は、まるで一幅の絵画を見るようであった。
 鮮やかな赤いドレス姿のメリル婦人と、それを取り囲む漆黒の翼をもつカラスたちの群れ。部屋の中央のベッドに横たわる老人の傍らには青ざめた顔の美少年が跪き、顔を歪め生気を失いつつある老人の枕元には、鳥かごに入った清らかな白い花が命の灯火のように置かれている。

 メリル婦人は手を合わせ、祈るような様子で頭をうなだれていたが、ふと顔を上げドアの向こうに佇み見守る人々に呼びかけた。
「皆さん!どうかこの老人のために祈って下さい。そして、傷は癒える!と心から信じて下さい。そうすればきっと、奇跡が起こります!」
 メリル婦人の呼びかけに、その場に居合わせた者はみな思い思いに手を合せ、老人のために祈った。
 そしてしばらくの沈黙の後、突然、使用人の一人が声を上げた。
「名もなき花が開くわ!」
 いっせいに人々の視線が名もなき花に注がれる。
 はたして、それまで花弁を固く閉ざしていた名もなき花のつぼみは、いまやゆっくりとほころび始めようとしていた。それとともに、かすかに芳しい香りが部屋にたちこめ、人々はその甘い香りにすっかり魅了されていった。皆ひとしく心をときほぐされ、穏やかで希望に満ち溢れた感情が内に湧きあがるのを感じた。
「クリス!クリス!」
 メリル婦人は、何度も繰り返し老人に呼びかけた。たちこめる名もなき花の香りが一段と強くなっていく。それまでずっとクリス老人の手を握りしめていたデービッドが、思わず叫んだ。
「今、クリスが僕の手を握り返したよ!」
 その瞬間、メリル婦人は美しい花を咲かせたばかりの名もなき花の一輪を手折り、それをクリス老人の額の上において叫んだ。
「名もなき花の命の源よ。この老人に命を授けよ!」
 メリル婦人の頬に涙が光った。
 それは愛する花の命を自ら摘み取ったことへの悲しみであったのかーー、チャールズはメリル婦人の悲痛な表情を見て、胸がしめつけられる思いがした。
 クリス老人の容体はみるみる回復の兆しを示しはじめた。頬には血色がもどり、苦痛の表情は穏やかさを取り戻し、まるでただ眠っているだけのようにさえ見受けられる。やがて老人は元気そうな様子で目を覚まし、傍らのデービッドに向かい笑みを浮かべて話しかけた。
「デービッド様……」
 この様子を見ていた人々の間から、どよめきが起こった。 
 いまやクリス老人は、明らかに命の危険から免れたことを物語っていた。傷跡はかすり傷程度のものとなり、ベッドに半身を起こす様子にも力強さが感じられた。メアリーは、セシリアに指示して2階の客間に待たせてあった医者を呼びにやらせた。
「さあ、カラスたち!もう家へお帰りなさい。クリスはもう大丈夫ですよ」
 メリル婦人がそう言うと、カラスたちは各々身振るいしたり翼を動かしたりし始めた。そして群れを束ねる長の一声を合図にばたばたと飛び立ち、部屋に入ってきた時のようにぐるぐると輪を描くと、開け放たれた四つの窓から次々と屋外へと飛び去っていった。

「メリル婦人。よく来て下さいました……」
 クリス老人はメリル婦人の手を取り声を震わせて言った。目には大粒の涙を浮かべている。
「助かって良かった、クリス。あなたは私の大切な友人です。お礼なんて必要ありませんよ」
 カラスたちのいなくなったのを見計らい部屋の中へと入ってきたメアリーは、メリル婦人に近づいて言った。
「メリル婦人。来て下さって本当に助かりました!心からお礼を申し上げます」
 メリル婦人は優しい笑顔を浮かべ、メアリーの両手を取って答えた。
「メアリー、久しぶりですね。マーシャル家に嫁いでからは顔を合す機会もありませんでしたね……。でも今日こうして再会できて、本当に嬉しく思っていますよ」
 メアリーも嬉しそうに頷いた。
「はい。最後にお会いしたのは兄のベンジャミンの葬儀の日でしたから……、かれこれ15年は経っているかと思います」
 すると、メアリー婦人はにわかに表情を曇らせたが、それと悟られぬようにとの気づかいからか、部屋へと入ってきたチャールズの方に顔を向け話しかけた。
「チャールズ。あなたにお会いするのもあの日以来ですね」
 チャールズは真っ直ぐにメリル婦人を見返して答えた。
「ええ、そうです」
 メリル婦人は二人を前に、真剣な表情を浮かべて言った。
「実は……あなたがた二人に、是非会わせたい人がいるのです。そしてその方は今、この屋敷に来ているのですよ」
 二人は顔を見合わせ、声をそろえて訊ねた。
「一体、どなたですか?」
 メリル婦人は言葉を探すかのように宙の一点を見つめ、それから二人に向き直ってゆっくりと答えた。
「その方は、観想修道会の修道士様です」
「修道士様?」
 二人はますます拍子抜けしたような顔になり、首を傾げた。


  その修道士は応接間の椅子に一人腰かけ、じっと二人を待っていた。
 フードを深くかぶり頭を覆っているため、顔はまったく判別することができない。とはいえ観想修道会によっては、修道会の外で人と会うことさえ禁じる会もあり、二人は修道士が顔を露わにすることを禁じられているのだろうと思い、無言のまま向かい合わせの椅子に並んで腰かけた。
「私の声を覚えていますか?」
 二人が座るとすぐに、修道士はだしぬけにそう話しかけた。
「さあ、どなたでしたか?以前お目にかかったことがあるのでしょうか?」
 チャールズは考え込んではみたものの思い当たらず、申し訳なさそうに答えた。
「ーーそうですか。どうやら私の声をお忘れになってしまったようですね」
 修道士はやや気落ちしたような声で言った。
 と、その時である。突然、メアリーが悲鳴のような声を上げた。
「まさか!……」
 激しくうろたえるメアリーに、チャールズは不安げに彼女の肩に手をかけた。
「メアリー?」
 だがメアリーは、その手を振り払うように立ちあがって叫んだ。
「その声は……ベンジャミン!そうベンジャミンだわ!」
「何だって?!」
 そう聞き返しはしたものの、チャールズも聞き覚えのある声であったことを思い出し、「そんなことが、あるはずはない……」とうめくようにつぶやいた。
 すると修道士は、彼の顔を隠しているフードに手をかけゆっくりと覆いを取りはらった。
「ベンジャミン!!」
 それは、紛れもなくベンジャミン本人であった。
「二人とも、元気だったかい?」
 驚きのあまり言葉を失うチャールズとメアリーに、遅れてやってきたメリル婦人が語りかけた。
「わたしが、真実をお話しましょう。15年前の葬儀の日、実はベンジャミンはすでに修道会に向けて旅立った後だったのです。ベンジャミンは観想修道会へ入ることを決意した時、会の決まりで二度と家族のもとへは戻らぬとの誓いをたてさせられました。けれど決意して去るベンジャミンはともかく、残された家族にしてみれば生きていると思えば会いたい気持ちは募るもの。それであなたがたのお父上が、ベンジャミンを死んだものとして無人の棺桶を墓に埋め、葬儀を執り行われたのですよ」
「そんなことって!」
 メアリーは、彼女の父がこの事実を隠し葬儀を執り行ったという事実を知らされ、激しい憤りを覚えずにはいられなかった。
「父上を恨んではいけないよ、メアリー。わたしは酷い火傷を全身に負い、二目と見られぬ姿になりはてていた。わたしが観想修道会に入ることを決意したのは、外の世界から隔離されることを自ら望んだからなのだ。だがメリル婦人は、傷を癒すことを決して諦めてはいなかった。だからわたしが修道会に入ってからも、名もなき花を携えてわたしのもとを度々訪れては、癒しの業を行って下さったのだ。そうして長い時間はかかったが、わたしの火傷跡は徐々に癒され、今ではもうどこに火傷を負ったのかすら分からないほどにまでなっている。今朝クリス老人のもとへ行くため、修道会に馬車を借りに来られたメリル婦人にお会いして、わたしは上長様にお願いしたのだよ。どうか御者として馬車に乗り、この屋敷まで出かけることを許して欲しいとね」
 ベンジャミンはそう言うと、何事か思案するように視線を落とし口をつぐんだ。
 そこでメリル婦人が、ベンジャミンにかわり話を続けた。
「上長様は、この屋敷に妹であるメアリーがいることはご存知でした。その上でベンジャミンがここに来ることをお許しになったのですよ」
 ベンジャミンが、ふたたび口を開いた。
「チャールズ……。君に是非会いたかった。会ってどうしても伝えたいことがあったんだ。もうこれ以上、わたしのことで自分を責めないで欲しい。わたしはあの日、生まれ変わったんだよ。短気で不寛容だったかつての自分は死に、新しい自分に生まれ変わったんだ。あの事故はわたしにとって必要な、神の御業であったのだと今では思っている」
「ベンジャミンーー」
 チャールズの声は震えていた。
 彼は目頭を押さえ、そのまましらばくじっと目を閉じた。そしてこれまでに起きたさまざまな出来事を思い返した。
「メリル婦人……わたしは間違っていたのかも知れませんね。名もなき花の癒しの力は神秘の業。人が利用しようとして、容易に利用できるようなものではないーー」
 メリル婦人は、つぶやくようにそう言うチャールズを、優しく見返して言った。
「そうですね。命は限りあるものです。何人もその運命に逆らうことはできません。ただ時として救われたいと願う強い思いが、奇跡を呼び起こすことがあるのです。それは本当に素晴らしいことだと、わたしは思っています」
 こうしてチャールズは、この日、メリル婦人をこれまで悩ませてきた彼の申し出を、はっきりと撤回すると彼女に約束したのであった。
 そしてイジーは、悩みが解決したメリル婦人と共に馬車に乗り、マーシャル邸をあとにしたのである。

                                 終


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COMMENT - 2

Sat
2013.01.05
16:18

kao._. #k9MHGdfk

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最終話感動ですv

最終話感動です!v

ハッピーエンドになってとても幸せv>v<*
メリルさんもそうですがっ

つい、ベンジャミンとチャールズに思い入れしてしまいます*

完結おめでとうございます~っ*vv

Edit | Reply | 
Sun
2013.01.06
13:02

エンジェルズアイ #-

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Re: 最終話感動ですv

「メリルさんの悩み」を最後まで読んで下さってありがとうございました^^
少しでも感動していただけたとしたら、とても嬉しいです!
ベンジャミンもチャールも素敵な男性をイメージして書いてきましたので、わたし自身も思い入れの深いキャラクターです。
「メリルさんの悩み」は最終話まで4か月もかかってしまったので、無事完結までこぎつけてホッとしています。「おめでとうございます」とのお言葉ーー感謝感激です><
しばらくブログをお休みしますが、2月からはまた「星読み」をはじめ新しい作品に挑戦していきたいと思っています。
今年もどうぞよろしくお願いします。

Edit | Reply | 

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